関西人は無類の蟹好きです。冬になると必ずと言っていいほど蟹を食べに行きます。蟹と言えば関西では城崎。我が家も京都に住んでいた時は必ず年に1回、年末に蟹を食べに城崎温泉に10年くらいは通っていました。全国各地のさびれていく温泉の中でここ城崎は活気ある温泉街で、とりわけ蟹のシーズンにはとても賑わいを見せるのです。
私たちの常宿は西村屋本館でした。城崎ではナンバーワンの高級旅館です。毎年、ここに泊まって蟹尽くしを頂くのが年中行事のひとつになっていました。
しかしある年、たまには違う旅館に泊まってみようということになって、それからは毎年いろんな温泉宿を順番に試し始めたのです。天橋立や間人、伊根などなど。どれも蟹料理はいいのですが、結果的に温泉のレベルで城崎温泉に勝るところはなく、旅館としてもやはり西村屋本館の上を行くところには出会いませんでした。
蟹の食べ方も、他のところは蟹酢を使わせてくれなかったり、あってもなんとなく物足りない味だったり。西村屋では茹で蟹をたっぷりの蟹酢に付けてガツガツ食べていたこと。その蟹酢が絶妙な配合だったこと。黙っていても仲居さんが気を利かせて蟹酢のお替りを持ってきてくれたこと。そんな西村屋が懐かしくなってきたのです。
そして2020年11月、松葉ガニのシーズンが始まり久しぶりに西村屋本館を予約したのです。本当に久しぶりで、懐かしい気持ちで旅館に足を踏み入れました。15年近く経つと、普通の宿ならリノベーションされて雰囲気が変わっていたりするところですが、ここは全く昔と変わらないままに保たれていました。今はフランスの宿やレストランの協会であるルレ・エ・シャトーのメンバーになって、ますます格式の高さもアップしていました。
今回は今まで泊まったことのない別邸的存在の「平田館」の部屋に泊まりました。全館で36室ある中で9室からなる「平田館」は、長い渡り廊下を延々と歩いて行く奥まった場所にあり、由緒正しい数寄屋造りで、ここのゲスト専用のお風呂も別途用意されています。お部屋にも露天風呂が付いていて、蟹+温泉だけでなく室内露天風呂付きという私の贅沢な希望を叶えてくれるお部屋でした。
「本生かにづくし」という晩餐が始まりました。地元津居山港で水揚げされた最高級を示す青色のタグが付けられた立派な松葉ガニがなんと1人2杯ずつ用意されていて、さまざまな料理で出してくれるのです。まずは蟹酒で乾杯した後、大きな蟹の足の刺身が乗った握り寿司などの先付。そして定番の茹で蟹はまるまる1杯です。蟹酢で半分ほど堪能します。皆会話がなくなります!やっぱりこれでなくっちゃ!調子に乗って1杯全部食べたら後が続かないので、仲居さんが注意してくれます。茹で蟹は持つので明朝に再度お出ししますとのことで、次に刺身と生の蟹味噌。生で食す蟹味噌はもはや言葉も出ないほど豊潤で滑らかな味わい。口福のひと言。
炭火焼きで頂く蟹味噌甲羅焼きも最高。蟹すきや蟹雑炊まで行くと、さすがにお腹いっぱいです。今年の蟹はこれで食べ納めでもいいと思うほどの満足感です。翌朝残りの茹で蟹が出たけれど、もう蟹はしばらく見たくない!と思ってしまいました。
でもまた来年の11月になって蟹のシーズンが始まったら、きっとそわそわし始めることでしょう。なんせ私は関西人ですから! (2020年11月訪問)
旅館名 | 西村屋本館 |
住所 | 兵庫県豊岡市城崎町湯島469 |
TEL | 0796-32-2211 |
お風呂 | 大浴場 露天風呂 |
予算 | 2人部屋利用の場合 1人54000円~(2食付) |
露天風呂付客室 | あり |