三浦義武氏。日本で初めてネルドリップコーヒーを作った人です。2重のネルのフィルターで1度に200ℊものコーヒー豆を使って撹拌し、水出しで1時間ほどかけて淹れる特殊なコーヒーなのです。それが三浦氏のファーストネームを取ってヨシタケコーヒーと呼ばれています。私は昔どこかの喫茶店で見かけたことがあったのですが、最近見たことはありませんでした。
それがこのコーヒーを伝承する人がいるのを知ったのです。島根県西部の浜田市出身だった三浦氏と同様にここ浜田市在住でカフェを経営する田中昭則さんです。
JRの無人駅である折居駅を出てすぐの海辺の古民家カフェ、Gallery & Café FUN (ギャラリー&カフェ ファン)。ネットで見つけてダメもとで電話してみました。「できればヨシタケコーヒーを飲んでみたいのですが・・・?」
すると、「他のお客さんも来ているから、ちょうど今ネルドリップコーヒーを淹れてるとこです。よかったらすぐ来てください」との答えです。あとで知ったことには、ネルドリップコーヒーは一度に8人分作らないとダメなので、2人だけだと淹れてくれないのです。普通のコーヒーなら1人分14ℊのところが、これは200ℊも使うからです。
浜田駅から海を眺めながら車で走ること20分余り。木造の壁に流木で書かれたギャラリーの文字がなんだか素朴で可愛らしい。マスターの田中さんはカフェの入口で私たちを待っていてくれたようです。温かい歓迎を受け、靴を脱いで2階に上がると、ギャラリーを兼ねたカフェスペースが。目の前に海が広がる特等席が海辺のカウンター席です。辺境感いっぱいの、まさに隠れ家のシービューカフェなのです。
海が目の前なので、近くには新鮮な魚介類が売られる海鮮市場もあります。「活魚植野」さんから届く海鮮丼などもおまかせランチ(1200円)として出してくれるのです。カフェといって飲み物だけではなかったのです。美味しい海鮮丼を食べたら、食後は薫り高いヨシタケコーヒーです。
すでに田中さんが用意してくれていたコーヒーは水出しで1時間かけて作られたもの。水出しの方が香りがいいので、冷たいのをコーヒーカップに注いでくれます。クッキーとチョコ付きで600円。生まれて初めての水出しコーヒー体験。コクがあって香りが素晴らしいコーヒーです。海を眺めながら居心地のいい癒しの時間を過ごしたのです。
このカフェは3年前から始めたそうで、ネルドリップコーヒーの認証が下りたのは1年ほど前だそうです。勝手に出すことはできない特殊な製法なのです。
実は田中さんは以前、大病を患ったのだそうです。突然の病にかかったことでわかったことは「生きていくことは死んでいくこと」。だから生きているうちにやりたいこと、好きなことをしようと、このカフェを始めたのだそうです。20代の時から写真に凝ってきたので、地元の人々の写真なども展示できるギャラリーも兼ねたカフェスペースを作ったのです。1階には田中さんのカメラや知り合いのカメラが所狭しと展示してありました。
ここ島根県西部の石見地方は東部の出雲地方と共に島根県を構成しています。石見地方は香川県の2倍の面積があるほど広大な地。浜田市をはじめ4つの「市」があるにもかかわらず、この地方には映画館が一つもないほど娯楽が少ないところだそうです。このチャーミングで温かい海辺のカフェは、間違いなく地元の人々の憩いの場となっているようです。
(2021年5月訪問)
レストラン名 | Gallery & Café FUN (ギャラリー&カフェ ファン) |
ジャンル | カフェ |
住所 | 島根県浜田市西村町1069−1 |
TEL | 090-3637-8282 |
予算 | コーヒー600円 ランチセットもあり |
座席 | 10席ほど |
個室 | なし |
予約の可否 | 予約可(ネルドリップコーヒーは要予約) |