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富山県の「リバリトリート雅楽」内のレストランから2020年12月に誰も思わないような山奥に移転して新たにオーベルジュを開業したのが、前衛的地方料理として日本中にその名を知らしめているCuisine régionale L’évo (後記L’évo)。遠くであっても行ってみたいと思わせる魅力のあるオーベルジュの全容お伝えします。
オーベルジュ施設
富山県利賀村にある L’évo は、富山駅から電車に乗ること約30分の越中八尾(えっちゅうやつお)駅が一番近い駅で、そこから車に乗って1時間ちょっと、山道を含め、距離にすると約30キロくらいの山間にあります。
一番大きな建物がレストラン棟です。入口を入るとレセプションがあり、何組もが座れる椅子が配置されていて広めのスペースです。
ここには一つの木から製作された立派な葡萄のオブジェがあります。あえて色をつけていない単色のオブジェは、浮き出るように造作された葡萄や葡萄の葉でとても素敵です。
案内されて外へ出ると3棟別々に建てられたゲスト用のコテージがあります。L’évoは、宿泊施設の居心地の良さが群を抜いていました。
建物、素材、調度品、寝具、アメニティ、食器からカトラリーに至るまでどれだけこだわり抜いて計画したのでしょう。
テレビもWiFiも無いので静寂の中で自然の音や光を感じながら滞在が出来ます。
コテージの奥には本格的なフィンランドサウナがあり、到着時に時間を予約するので人と会うこともありません。サウナ横の庭には、自然に山から流れてくる水がそのまま浴槽に貯められている水風呂があって、温度管理はおそらく出来ないので冬は凍るのかもしれませんが、作り込まれすぎてなくてとてもいい雰囲気です。
オーベルジュからたった10分くらい坂道をあがってみたら何の建造物もない中に一面のススキを見ることが出来ました。山から流れている水が道を遮り、そのまま山の斜面に落ちています。手付かずの自然がそのままの場所にひっそりと建っているオーベルジュなのです。
L’évoの料理
レストランの扉を開いたら厨房のスペースが6割くらいを占めていて圧巻でした。奥には個室もありますが、今回は厨房の見える席でした。厨房は少し高さがあるみたいで、実際に席に座ると厨房の中はあまり見えないようになっています。
席のテーブルを開けると繭と和紙で出来たメニューと盃が。初めて食べるL’évoの料理とても楽しみです。スタッフが楓の樹液を盃に入れてくれました。少しだけ甘い樹液でした。
プロローグから始まるL’évoの料理。美しい前菜と野生的な料理の対比から谷口シェフの幅の広さが感じられます。事前に資料などで見ていた定番の料理も、実際に食べてみるまで味の想像がつかないところも素晴らしかったです。
特に気に入ったのが、循環農家さんに餌などを指定して育ててもらったL’évo鶏の足、首から下の皮を巻き付けて餅米などを入れて作る谷口シェフのスペシャリテです。少しグロテスクな見た目ですが、そのまま足を持ちながら食べる鶏肉の味の濃さとうまみを感じられる一品です。
スタッフの方の話だと、谷口シェフが厨房で試作などをしてることはあまりないそうです。季節ごとの素材の味を把握していて頭の中で色々と組み立てて作っているのだそう。たくさんの食材をまとめる力によって成り立つ美味しくも複雑な味、食事中、2回くらい厨房に向かって小声で美味しいと叫びました。
レストラン棟の地下にはジビエの熟成庫とワインセラーも完備されています。
翌朝の早朝散歩をしていましたが、山間なので日の出では無く山の上の方から段々と陽があたってきました。スタッフの方にも伺ったら朝日だけでなく夕焼けも見えないのだそうです。
レストラン棟の奥にはパンを作る小屋もありました。
朝食は、利賀村のおかあさんが作る朝食をイメージして作られた和食です。
じゃがいもで作る郷土料理「かっちり」は、甘辛く煮付けて煮詰めれば煮詰めるほどカチカチになる所からついた名前です。
近場で取れた野菜の炒め物やおひたしや蕗の薹味噌。時雨煮などご飯に合うものばかり。その日の魚はハタハタでした。利賀村の豆腐はなんと通常の3倍もの大豆を使用して作られているのだそう。身体にしみわたる朝ご飯でした。
利賀村の田ノ島集落
オーベルジュの敷地内を散策していると思いもかけないところに石垣があったり、舗装の直されていない坂があることに気づきました。それぞれ違う方向を向いている3つあるゲスト用のコテージもただの空き地に建てるならこうは建てないだろうなと不思議に思い宿の方にお伺いしたら、この場所はかつて富山県の中に70箇所ほどある廃村になった集落の一つであったことを教えてくれました。L’évoはかつてその場所にあった田ノ島集落という廃村になった場所に、地形の形状を活かして作られたオーベルジュだったのです。全部を壊して新しくするのではなく、形状を残すことで村の面影が残ります。それが散策をしていてとても面白い状況を作っています。
厳しい寒さや不便さで人が村を離れ、人家だけが残った場所なので、当時住んでいた方に数十年後にここにフランス料理のオーベルジュが出来ますよと言っても誰も信じてくれなかったと思います。
谷口シェフを初めスタッフみんなで土地の交渉や片付けをする所から始め、オーベルジュにした熱意がすごい。古民家を改装した宿やレストランはたくさんありますが、一つの集落ごと改装したオーベルジュということに本当に驚きました。
まとめと宿デ-タ
また次回の予約をしてしまったくらいここでの滞在は驚きに満ちていました。レストラン棟入口の壁には集落に最後まで残っていた民家の壁が使われています。地元の物だからなのか色味のおさえた木のテイストがレストランのテーブルの印象に近くてとてもしっくりときます。湧き出る水、手付かずの自然と最高レベルの料理、そして食事が終わったらそのまま寝られる幸せが体験できる場所です。
子供の頃に欲しかった秘密基地を思い出しました。理想郷のような空間を創り出した谷口シェフとスタッフの方々の熱意に圧倒された滞在でした。
(2021年10月訪問)
宿名 | Cuisine régionale L’évo (キュイジーヌ・レジョナル・レヴォ) |
住所 | 富山県南砺市利賀村大勘場田島100番地 |
電話 | 0763-68-2115 |
創業 | 2020年12月 |
予算 | 宿泊人数で割るコテージ44,000円 〜 ディナー:22,000円/1名 朝食:3,850円/1名 (全て税込) |
WEBサイト | https://levo.toyama.jp/ |
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