焼津に降り立ったのは初めてのことでした。目指す美食店がなければ来ることもなかっただろう土地。静岡で新幹線を降りてローカル線で8分ほど。駅前にはカフェひとつありません。タクシーで10分あまりで閑静な住宅街にある「温石」に着きました。カウンターで13時一斉スタートのランチです。かつては個室で2組だけ受けるお店だったのが、2019年からお客様と向き合うカウンター席を設け、名声が広がったのです。炭火焼きの設備のある風情あるカウンターです。
少し早く着いたのでワインを飲んで待ちました。私たちの他にゲストは2組の常連さん。おせちが美味しかったとか大将の杉山乃互(だいご)氏のことをだいごくんと呼ぶほどかなりの常連さんのようです。地元の人かと思えば東京から来ているらしく、名店をあちこち食べ歩いているかなりの食通のよう。そのようなお客さんが通う有名店がこの温石なのです。食べログでも4.27(2021年2月現在)と驚きの高評価です。
この店が素晴らしいのは、全国で知られる焼津の老舗「サスエ前田魚店」から鮮魚を仕入れたり、食材にこだわりぬいていること。調理法が素晴らしいのはもとより、大将が自らカウンターの中でお客さんに料理を仕上げていく過程を見せることです。そしていくら忙しくても、きちんとお客さんとの会話もしてくれます。初めて行った私たちも大将だけでなく常連さんとも話せるようなムードだったのは嬉しいことでした。女将さんも然り。他のスタッフも皆愛想がよく居心地のいいお店なのです。
大将のお父さんが42年前お蕎麦屋さんとしてこの店を創業。後に目白の懐石料理店「和幸」(現在は閉店)で修業をされたといい、大将も同じ店で6年間修業してから地元の焼津に戻りこの店を継いだそうです。
炭火で焼き立てを出してくれたり、茶の湯の心得がある大将が抹茶で締めくくられたりします。ランチで1万円のコースを頂きましたが、どれもいい味でした。常連さん方はもっと高いコースを頼んでおられたようで、お皿の数が違いましたが、私たちにはこのコースで十分な量でした。
寒いから胃を温める品からお出しします、と最初に出たのが聖護院大根を炊いたもの、イカの揚げ真丈と菜の花のおでん風。お造りはヒラメとアオリイカ。アオリイカは柔らかく、イカスミの塩を振って頂きます。次に出た特大のハマグリのおじやは、ハマグリの塩気のみで一切塩など使わず、優しくホッとする美味しさです。
焼津で採れたメイゴ(いしづち)と椎茸のお椀、春菊の胡麻和え、静岡の麻機地区の香ばしい蓮根のかき揚げと続きます。甘鯛の鱗のカリカリ添えは身が驚くほど柔らかい。1時間以上目の前の炭火で焼いて柔らかく甘くなった玉ねぎも絶品。シンプルに素材と調理法で勝負です。穴子がプリプリで海老のようだったのにも驚きです。竹の子ご飯の後はデザートの美味しいイチゴと、自家製黒豆あんこのどら焼きとお抹茶で締めます。甘さ控えめでもっと食べたくなるどら焼きでした。
目立った派手さはないけれど、どれもが丁寧で食材の最上級の美味しさを引き出した料理の数々。食通が通う理由が少し分かったのでした。 (2021年1月訪問)
レストラン名 | 茶懐石 温石(おんじゃく) |
ジャンル | 日本料理 |
住所 | 静岡県焼津市本町6-14-12 |
TEL | 054-626-2587 |
予算 | ランチ、ディナー共 8000円~ |
座席 | 12席 |
個室 | あり |
予約の可否 | 完全予約制 |