「ひとりで作って運び説明もするので、営業時間中の電話予約は一切受け付けできません」
そういうお店があります。シェフが一人で切り盛りする、いわゆる「ワンオペ」のお店は、青山という一等地にあるこじんまりしたお店「ラルテ沢藤」。アシスタントがいないから、当然電話に出ている余裕はないわけです。
行く前に調べると、平日ランチは1500円からで、スープ、前菜、パスタ、小菓子、カフェが出ます。青山にあるお店とは思えないコスパの良さです。私たちは3950円の7品のランチを頂きました。クレジットカード不可で現金払いのみ。でも代わりにサービス料を取らないという良心的なやり方にまたびっくり。
お邪魔してみると、本当に小さなお店で、シェフ沢藤隆氏がひとり奥で料理をし、お母様が飲み物や料理を運ぶお手伝いをされていました。コロナ禍だからかゲストは2組しか受けておらず、家庭的なムードのお店で、シェフが自分たちだけのために料理してくれるような贅沢な気分が味わえます。シェフが一人で運び、説明もしてくれるのは、「作った本人が思いを正確に細やかに伝えたい」意図があるためだそうです。
沢藤氏はイタリアで4年半ほど修業をした後、帰国して超有名な横浜の「サローネ2007」などでシェフを務めた後、2014年にこのお店をオープンされました。1970年生まれで50歳を超えたシェフである息子さんのお手伝いを一生懸命されているお母さんの姿を見て、これこそイタリアのマンマ(お母さん)みたいな深い愛情を感じて心がぽっかり温まるのでした。こうしてスタッフを雇わずお勘定書きも手作りして経費を抑える。「庶民の料理、マンマの料理」が本来あるべきイタリアンとの考えから、高級食材もあまり使わないシェフの方針。だからこれほどリーズナブルな価格設定が可能なのでしょう。
食材だけでもこれでもか!というほどたくさんの種類を使用し、凝りに凝ったソースやスパイスで味の変化を付けるシェフの料理は、見た目にも鮮やかで美しく、まるでフレンチのよう。
1皿目はアミューズやスナック風のものよりスパークリングワインに合わせた甘めの物をということで、優しい甘さの冷製スープから始まります。季節によって素材は変わり、今は人参のスープ。人参はアルカリ水や塩、オイルと混ぜてクリーミーに、グレープフルーツゼリーやキューブ状のコーヒーアイス、シナモンやバニラを振りかけて、かなり凝ったスープです。
次は「隠されたモザイク」と名付けられた、いわゆる柿と生ハムに鮪や紋甲イカ、数の子を加えたもの。生ハムで隠すように蓋をしてあるのです。底には人参のピューレが敷かれ、サイコロ状の柿と共にケッパーやカカオも入り、味わいも複雑で食感もいろいろ。どうやらシェフは味の求道者のようですね。
温前菜のサーモンやパスタ1皿目の大麦のリゾットなど、クリーミーなソースが続くのが私には少し重く感じはしましたが。
スペシャリテともいえるポモドーロのパスタも、かなり凝っていて、3種類のトマトを焦げる寸前まで揚げるように炒めているため、見た目がこげ茶で、味わいがある分濃厚です。これはミンチを入れてボロネーズになりそう。私の好み的にはポモドーロは爽やかなトマトが入っている色鮮やかなものなのですが、濃いめが好きな人も多いだろうし、ここは賛否両論かもしれません。
メインの肉料理は「豚とキャベツのインボルティーニ」。豚ひき肉と細かくしたキャベツに卵とパン粉を混ぜ、豚バラ肉で巻いた料理。バラ肉はかなり脂っこいのに、カリッと焼いた焦げ目がなく、やや冷めていてべとーッとした食感が多少食べにくいものでした。これにも赤ワインソースに白菜のピューレ、生姜、トレヴィス、リンゴのサラダなどたくさんの食材が絡みます。肉の表面をカリっとジューシーに焼いて、焼き立ての熱々を出してくれたら食欲が増すのですが。席数も少ないのでそれは可能かと思いました。
全体的に味が複雑すぎる印象でした。イタリアンのマンマの味と謳うのなら、もう少々シンプルにしても、日本で好まれる「熱い物は熱く」最高に美味しく食べられる状態で出すことに気を配れば、より一層素晴らしい料理になるのでは?
でも、このお店の温かいムードがツボにはまってリピーターになっている人も多いはず。冒頭の1500円のランチにも、今回食べたスープや前菜、ポモドーロのパスタなどが付くようなので、信じられない安さです。これからもここ青山でコスパのいいマンマの料理を頑張って提供してほしいと思います。
(2021年2月訪問)
レストラン名 | ラルテ沢藤 |
ジャンル | イタリアン(イタリア料理) |
住所 | 東京都港区南青山3-4-12 佐々木ビル1F |
TEL | 03-5775-4980 |
予算 | ランチコース 1500円~(平日のみ) 3240円~(土・日・祝日) ディナーコース 4860円~ (現金のみ、サービス料なし) |
座席 | 最大20席 |
個室 | なし |
予約の可否 | 予約可 |