カウンターだけのお店は、大将の人柄で食事の印象は天と地ほど変わるもの。目の前で忙しそうに料理だけしていたり、常連客だけ相手をして初めての客はほぼ無視されたりすると、料理が美味しくても気分は全く盛り上がらないのです。公平にお客さんの相手ができないならカウンター営業は辞めた方がいいと思った店も今までにいくつかありました。
ところがここ「まつ山」さんはその真逆。大将である松山照三氏の気配りや飾らない人柄の楽しいトークで、6席だけのカウンターの客全員が乗せられて、気が付けば客同士も和気あいあいと会話が弾んで楽しい時間となったのです。
北九州市の黒崎という駅に近く、私はJR小倉駅からタクシーで25分ほどで着きました。ランチは12:00一斉スタートで、お任せの2万円のコースを頂きました。予約が取りにくい店なので、当然カウンター6席は満席で、皆さん地元というよりも遠方から新幹線でわざわざ食べに来ています。それもグルメが大好きであちこち食べ歩いている人ばかりで、情報交換したり、同じ趣味の人々とは話が盛り上がります。お蔭で初めて行った私もすっかり常連気分。
大将は1981年生まれで今年40歳。トヨタ自動車でエンジニアをしていたのが、脱サラ後たこ焼き屋を開業して成功させたり異色の経歴の持ち主。その後地元北九州市の日本料理店で研鑽を積まれ、2011年にこのお店をオープンしたそうです。2014年と2019年にはミシュラン福岡・佐賀特別版で1ツ星を獲得。食べログでも4.44(2021年3月現在)、九州の日本料理ランキング1位という驚くべき高評価のお店なのです。
下ごしらえした料理を目の前で炭火焼きにしたり、特殊なバーナーで焦げ目を付けたり、見ていても食欲がそそる演出です。ハマグリと大根のお皿で少し温まったところで、大将は言います。
「皆さんお腹空かしていそうなので、次はがっつりお餅を食べてもらいます」
炭火で焼いたお餅が出ました。中にはなんと大きなからすみがごっそり入っていて、辛すぎずちょうどいい頃合いで、空きっ腹がおさまる大好きな味に思わずにっこり。
完全無農薬の焼いただけの玉ねぎの上にアイナメを載せたお椀、お造りの鮪と鯛と続きます。
料理の説明も幅広い知識を感じさせ、雑談も交えて皆を笑わせます。
八寸はひな祭りバージョンで可愛いお雛様の器に入って登場。空豆とねっとり豆腐、ぬた、新じゃがの短冊、お揚げと甘えびと青菜の和え物など、一つ一つが考えられています。
先ほどから目の前の炭火でタレを付けながらじっくり焼かれているのは低温調理を済ませた6人分のシャトーブリアンです。20㎝くらいの大きなマッシュルームもスライスして炭火で焼いて、一緒に出されました。大きいのに香りがとても良くて、肉との相性も抜群です。フキノトウのソースを付けて頂きます。
お口直しは海沿いの畑で採れる特別のトマトが小ぶりながら丸ごと1個。味と栄養を考えると薄く皮をむくのが大切だそうです。とっても甘くて滋味深い!さっぱりしてお口直しに最高です。次は香りも旨味も抜群の若竹(わかめと新竹の子の煮物)、苦みを感じるフキノトウなど春の山菜類を木の芽のタレで、というあっさりしたお皿が出て、最後はお食事です。味噌汁に入っている海辺の畑の春キャベツは甘くてシャキシャキ。大将がやっている明太子専門店の極上明太子とカラスミ入りのちりめんじゃこ、漬けにした中トロ、漬物。以上ををおかずに土鍋の炊き立てご飯です。残ったのは皆にお結びにしてお土産に持たせてくれました。
デザートは大きなあまおうのお雛様。こしあんを付けた上に薄くしたお餅の着物を着せてあります。可愛い1品。まずはそのまま3分の1かじったら、今度はカシスのリキュールをかけていただきます。こんなに美味しいいちご大福、初めてです。そしてお薄で〆て終了。
大将は氷菓子店KOMARUというソフトクリームのお店も近くでされています。帰りに寄って新作を食べて行こうという常連さんを横目に、食べたいけどお腹いっぱいで悔しい私は、泣く泣く小倉駅へ帰途に付くのでした。夏はお店でもデザートに出してくれるらしいので、次回に期待したいと思います。 (2021年3月訪問)
レストラン名 | 御料理まつ山 |
ジャンル | 日本料理 |
住所 | 福岡県北九州市八幡西区藤田2-1-10 |
TEL | 093-642-2278 |
予算 | 昼・夜共 お任せコース2万円(サ込税別) |
座席 | 6席カウンターのみ |
個室 | なし |
予約の可否 | 完全予約制 |