素晴らしいレストランの条件とは何でしょうか。質の高い料理、隅々まで行き届いたサービス…人それぞれ挙げる要素は異なりますが、きっと「美味しいお酒」に重きを置く人も多いでしょう。今回ご紹介する新橋のフレンチレストラン「ラ・フィネス」は、いま東京で特にホットなお店の一つ。そしてシェフである杉本敬三氏の酒へのこだわりは人一倍です。
普通レストランに来てまず案内されるのはテーブルですよね。しかし「ラ・フィネス」ではテーブル席へ行く前に一度バーカウンターへと通されます。ここではシェフが厳選したお酒と特製のアミューズを楽しむのですが、驚くべきはカウンターに立つのが杉本シェフ自身であるということ。高級店のシェフはどこかシャイで最後の挨拶くらいしか表に出てこない人がほとんどですが、このお店ではシェフ自らサーブし、料理やお酒の説明をしてくれるのです。
ではシェフがホールに出てこられるほど厨房は人手が足りているのかと言えば、そんなことはなく。むしろ「ラ・フィネス」は少数精鋭という言葉がピッタリのレストラン。以前はソムリエの資格を持つホールスタッフもいたそうですが、現在はなんとホールと厨房を3人だけでまわしているというから驚きです。しかしスタッフが少ないからと言ってサービスが物足りないと感じることは一切なく、料理が提供されるスピードも一般的なフレンチレストランと大差ありません。私としては料理のことを誰よりも理解しているシェフがお皿の説明をしてくれるのが嬉しかったです。食材や調理法のこだわりをこれでもかと語ってくれた杉本シェフ。彼の料理への情熱を感じずにはいられません。
実は2013年に開催された若き才能を発掘する日本最大級のコンペティション「RED U-35」で初代優勝者に輝いた杉本シェフ。そんなシェフがつくり出す料理はフランス料理の伝統を重んじながらも、彼らしく再構築された逸品です。鴨のコンソメは贅沢にも骨ではなく肉からとるこだわりで、香り豊かなタケノコと鴨の肉団子と共にいただきます。また魚料理もフレンチレストランとしては珍しいフグの料理。正直私はどこに行っても同じような料理になりがちなフグがあまり好きではないのですが、ここの料理はフグ料理の概念を覆すような品でした。深めのお皿に載って運ばれてきたのはなんと…ビニール袋。フグとアワビ、トリュフを合わせたその料理は、思わずうっとりとしてしまうような香りが特徴的。ビニールはその香りを閉じ込める為の手段のようで、目の前で固く縛られたビニールの先端をハサミでチョキチョキと切ってくれるのです。演出は勿論のこと味付けも素晴らしく、初めてフグを美味しいと感じることが出来ました。
そして忘れてはならないのが料理と合わせるお酒です。フランス滞在中にワインにハマったという杉本シェフ。その知識量は半端ではなく、今まで出会ってきたどのソムリエさんよりも詳しいのではと思えるほど。このお店では是非ともペアリングでコースを楽しんでみましょう。シェフが選びに選び抜いたお酒は料理とのマリアージュが素晴らしく、これぞペアリングというような、しっくりくる組み合わせが堪りません。また変わっているのがペアリングに一部日本酒を採用しているところ。今回私がいただいたのが「農民藝術概論」という貴重な日本酒。辛味が無く、スッキリとした旨味が料理の風味を際立たせます。フレンチのシェフなのにワインだけでなく日本酒にまで明るいとは…シェフ自身が誰よりもフーディーな証拠です。
なんと8歳の頃から包丁を握っていたという杉本シェフ。小学校を卒業する頃には魚のさばき方など一通りできるようになっていたのだとか。そして高校の時には地元の喫茶店を借り切ったレストランイベントを開催。10人限定の完全予約制のレストランで1人1万円のコース料理を提供するなど、この頃からプロ意識が高く、人をもてなすことに喜びを感じていたのだと言います。
天賦の才能に加え、料理への飽くなき探求心。当時まだ学生でありながらその実力はプロにも認められていて、高校時代のバイト先であるミシュラン2つ星店のシェフに「天才」と称されたというから驚きです。
「ラ・フィネス」を訪れるお客さんの9割はリピーターだそうですが、その事実に思わず納得。一人一人のお客さんを大事にし、寄り添った食事を提供するこのお店は、自信をもってオススメできる東京のフレンチなのです。(2021年3月訪問)
レストラン名 | レストラン ラ フィネス (Restaurant La FinS) |
ジャンル | フレンチ |
住所 | 東京都港区新橋4-9-1 新橋プラザビル B1F |
TEL | 03-6721-5484 |
予算 | ランチ¥10,000~ ディナー¥22,000~ |
座席 | 10席 |
個室 | 有り |
予約の可否 | 完全予約制 |