人気店のシェフなのに控えめで謙虚で、あまりにも人柄がいい。そんなシェフに出会いました。島根県の西部、浜田市の片田舎。「ミアパエーゼ」イタリア語で「私の故郷」という意味のお店です。お店のカードに書いてあった「うみと、やまと。」というコピー通り、浜田駅から車で10分も走れば、山と海の大自然に囲まれた辺境の地。癒される自然に溢れています。そのお店のオーナーシェフ竹中厚志氏は、2018年にこのお店をオープン。古い民家をフルリノベーションして始めたお店は、数組のゲストを受け入れるお店で、スタッフも5人ほどいて奥様も一緒にやっていたそうです。それが方向転換となり、1年前に今度は1組だけのプライベートレストランとして再出発すべく再びリノベーションしたそうです。それからはたった一人でほぼすべてを行っているそうです。4名までのゲストなら一人でまかなえるそうで、それ以上の場合だけアシスタントに来てもらっているとか。
シェフはなんと静岡の大学で数学を学び、教育を専門にしていたそうで、卒業後は静岡ガスに勤務。それが全く異なる料理の道に興味がわいて人生の大転機を迎えたのです。今ではゴエミヨにも掲載される名店となり、2か月先までしか受けていない予約もほぼ全日すぐに埋まってしまうほどの人気店となりました。実際食べてみて、本当にどの料理も素晴らしかったので、よくぞ一人でここまで頑張られたものだと感動しました。シェフにそう言うと、「私なんてまだまだ全然です」との返事。謙虚すぎるのでは?
ランチにお邪魔して、8皿10000円のコースを頂きました。すべてテンポよく、出来立ての熱々を出されます。パンまで自分で焼いているのです。1人なのにすごいと思いました。よほど熟練しているか準備が万端なのか。1組だけのゲストを誠心誠意おもてなししようという気持ちが伝わってきます。専属の料理人に作ってもらっているような、これ以上ない贅沢な気分なのです。シェフにとって、自分のやりたい方法で1から10までできることはスタッフを使うより、もしかしたらストレスがないのかもしれません。
日差しも強い5月末の昼、帽子がいるような陽気の中お邪魔すると、まず出たのが理想的な1品。新玉葱と題された料理は、玉葱のムースの上に玉葱のアイスがのった爽やかでまろやかな口当たり。カモ肉のコンソメジュレやキャビアもいいアクセントになっています。次は浜田港産の脂ののった鯵。脂肪率が通常4%ほどなのに、ここのは10%越えだそう。それに切り目を入れて炭火で炙り焼きしてあるので香ばしいこと!玉葱のマリネや白い粉わさびもいい取り合わせです。
裏の畑で採ってきた野菜やハーブもフル出場です。ホワイトアスパラのムースに味が濃くて大ぶりなグリーンピース、豆のさやの出汁のジュレやタイムでいい香り。その後パスタは2種。ここでお店がイタリアンだったことを思い出しました。柔らかい豆スルメイカと竹の子、山椒、スルメイカのソースにアンチョビやトマトも入っています。2つ目は空豆とリコッタチーズのニョッキ。優しい味と食感です。
カリカリで美味しい甘鯛の鱗焼きの後は、奥出雲の和牛です。お肉も美味しいのですが、付け合わせのココット焼きされた蕪のみずみずしいことに驚きました。ジューシーでこんなに美味しい蕪は初めてでした。
最初スタッフも抱えて始めた時は、地元の人々の意見も取り入れてなるべく安く料金設定をしていたそう。でも今では1組のゲストしか取らないことから、10000円のコースのみという、土地柄とても高額と思われる店に変えたことを非難する人も多かったとか。1人っきりで孤独をかかえ頑張っているのにそんな声を聞いたら、きっと気弱になってしまうんでしょう。
地産地消。土地の食材を生かしたガストロノミーをここから全国に発信していく、こうした小さな店こそが世の中の流れになっているし、食通の人々に望まれているのです。地元のお客さんだけを相手にするのでなく、ここ山陰の浜田のことをもっと全国に知ってもらうために、このお店があってもいいと思います。
だから、もっと自信をもってやっていったらいいのだと、竹中シェフを心から応援したい気持ちになりました。 (2021年5月訪問)
レストラン名 | リストランテ ミアパエーゼ Mia Paese |
ジャンル | イタリアン(イタリア料理) |
住所 | 島根県浜田市内田町435−2 |
TEL | 090-1684-8770 |
予算 | ランチ・ディナー共 10000円のコースのみ |
座席 | 2名から6名1組のプライベートレストラン |
個室 | なし |
予約の可否 | 完全予約制 |