「胃袋を掴む」とはよく言いますが、ヨーロッパにも似たような表現のことわざがあるそうです。「愛は胃袋を通ってやって来る」─美味しいものを一緒に食べればより愛が深まる、つまり「美味しい料理と愛は繋がっている」という意味になります。大切な人の記念日を祝う時、1年の中でも特別な日、美味しい料理は確かにいつでも私たちの傍にあります。
「胃袋を通した愛を一緒に紡いでいきたい」そんな思いで名付けられたという「愛と胃袋」。山梨県の八ヶ岳麓、JR小海線・大泉駅近くにあり、築170年の古民家を再生した地方のフレンチレストランです。元は同じ名前で東京でお店をやっていたそうですが、4年前からこちらで心機一転お店をオープンさせたそうです。
シェフの鈴木信作氏やマダムの地元がこの町なのかと思いきや、実は特に縁もゆかりも無い土地なのだとか。東京へ日帰りできる適度な距離感と緑豊かな環境が大変気に入ったそうで、こうして移り住んできたのだと言います。
今回私がいただいたのは8,000円のランチコース。アミューズから始まる全8品構成です。(※注 7月15日以降全10品、11,000円のコースのみに変更になりました)
食事前、明るく優しそうなシェフがテーブルをまわり、挨拶をしてくれました。小さなお店ですがあと2組お客さんがいて、流行っている印象です。お店のすぐ近くには「愛と胃袋」と同じように古民家を再利用した「旅と裸足」と名付けられた一軒家貸し古民家宿もオープンされています。
まずはお店のマークにもなっている胃袋の形をした竹炭のクッキーから。中にルバーブのソースを挟んで甘さをプラスした可愛らしい一品です。
次いで出された料理も非常にユニークで、真っ赤なビーツのソースをかけて出てきたマスはお皿…ではなく瓦に載せられて運ばれてきました。なんでも昔敷地内に2つの蔵があったそうで、その蔵に使われていた江戸時代の瓦をこうしてお皿として再利用しているのだとか。燻製にされたマスは臭みの少ないヤギのクリームチーズやマスの魚卵と共にいただきます。見た目も鮮やかで美しいですが、味も田舎のフレンチとは思えないほど本格的で、遠方からわざわざ食べに来るお客さんの気持ちが分かります。
またドルチェドリームという品種のトウモロコシを使ったスープも少々味が濃かったですが美味しかったです。糖度が高いスープの上には、お祭りの屋台で食べるようなバター醬油風味の焼きトウモロコシが載せられ、シェフの遊び心を感じます。
そして特に素晴らしかったのが「梅雨」をイメージした新玉ねぎとトマトの料理。新玉ねぎの優しい甘さが特徴的なブランマンジェの上には、トマトのクリアジュレ、食感に枝豆をプラスして、更に庭で採れたというハーブやナスタチウムの花が添えられます。驚くような創作性はないものの、この時期に相応しい爽やかな一皿。味も洗練されていて、綺麗にまとまった料理だと感じました。
料理の全体的なクオリティもさることながら、シェフやマダム、そして若いスタッフさんの心配りも素晴らしかったです。テーブルにはそれぞれ手書きでお客さんの名前と「ご来袋ありがとうございます」という文字が。「胃袋」という言葉にかけて「ご来袋」というメッセージも楽しく、食事中の世間話も大いに盛り上がりました。やはり美味しいものを食べたら自然と笑顔も増え、話題も弾むというもの。「愛と胃袋」はまさにそんな空気をつくり出してくれる、素敵なお店でした。(2021年7月訪問)
レストラン名 | テロワール 愛と胃袋 (Terroir 愛と胃袋) |
ジャンル | フレンチ/フランス料理 |
住所 | 山梨県北杜市高根町長澤414 |
TEL | 0551-30-9199 |
予算 | ¥11,000~ |
座席 | 20席 |
個室 | 有り |
予約の可否 | 完全予約制 |