能登イタリアンと発酵食の宿ふらっと(能登町/石川県）～発酵イタリアンが人気

伝説の「さんなみ」から変わらない素敵なエントランス

能登半島にある小さな宿「ふらっと」。1日4組のゲストだけの家庭的な宿なのです。ここの魅力は能登らしさを味わえること。女将の船下智香子さんとご主人であるオーストラリア人オーナーシェフのベンジャミン・フラットさんが能登町で営む宿。しかもご主人の作る料理はイタリアンなのです。イタリアンなのになぜ能登らしいのか？
それは能登の食文化に欠かせない魚醤いしりを使っていること。そして発酵王国能登ならではの発酵イタリアンの料理を出す独自の「能登イタリアン」というスタイルを確立しているからです。
朝食は能登らしい和食です。ここでないと食べられない能登の食材の料理を頂いていると、まるで「能登の家族」の一員になったような気分が味わえるのです。どんなおかずが出たのでしょうか？
女将のご両親がこの地で営んでおられた宿こそ、日本を代表する3大料理民宿のひとつと言われた「さんなみ」なのです。「さんなみ」の伝統と食文化を引き継いだこの宿の滞在は、どうだったのでしょうか？まずは能登の食文化に欠かせない「いしり」のお話から始めたいと思います。

能登の食文化を代表する「いしり」とは？

「いしり」は能登に昔からある魚醤油です。この地では普通の醤油より歴史が古いとか。「ふらっと」の女将さんいわく、能登町ではいしりはイカのゴロ（内臓）で作るもの。サバやイワシで作る輪島のものは「いしる」とか「よしる」とか呼び名が異なるのだそうです。彼女たちはイカ以外のものは「サバのいしり」という風に区別するそうです。
タイではナンプラー、ベトナムではニョックマムなどと呼ばれる魚醤はアジアの国々でもあります。日本でも3大魚醤の産地がありますが、もっとも古くからあって有名なのがここ能登のいしりです。能登の食文化にとっていしりは欠かせない存在なのです。

パスタのクリームソースにもいしりが味の深みを与える

ふらっとで作るいしりはイカの内臓と塩だけで作っています。通常1年以上寝かせたものがいしりと呼べるそうですが、ここのは3年寝かしているためフルーティーで生臭さがないのだそう。能登の超一流料理店(イタリアン）のシェフも「ふらっとさんのいしりは上質で絶品なのでいつも使っている」という話でした。イタリアンの料理でも、いしりを使えば味に深みが出るのでしょうか。
私もふらっとで買って帰って早速おすすめの茄子料理や洋食などに使ってみたら、やはり味に奥行きが出てとっても好評なのです。

ふらっとの部屋はどんな設備があるんでしょうか？

202号室は旅館と民宿の間位の設備の和めるお部屋

能登には美しい里山や里海があります。この宿もそうした自然を目の前に建っています。富山湾を見下ろす高台に位置し、2000坪もの敷地では無農薬の畑や果樹園もあります。
ふらっとは贅沢な旅館などとは対極にある、民宿に近い素朴な宿です。母屋に2部屋、離れに2部屋と計4組のゲストを受け入れています。コロナ禍の感染対策は徹底され、宿泊当時、東京から行くというとワクチン接種証明を事前にメールで送らないといけませんでした。宿内でも食事時など必ず手指の消毒をするなども、女将さんの「シュッシュお願いしとこうかな！」という掛け声が、若者にとっては実家のお母さんみたいな気分になるでしょう。

新しいから気持ちがいい檜のお風呂が滞在中貸切だった

私が泊まった母屋の202号室は、和室10畳一間に予め布団が敷かれていました。部屋には洗面所とトイレ付。廊下を挟んだ反対側にある2020年11月にできた総檜のお風呂が、滞在中は貸し切りで使用できるのがとても快適でした。新しいお風呂なので清潔できれいな上、追い焚き機能なども付いていて好きな時に何度でも入れるので、ちょっとして温泉気分でした。
部屋にはテレビや金庫があって、ポットが2つ、一つは冷水ともう一つは熱いお茶が入っていました。洗面所にはミニドライヤー、バスタオル、フェイスタオルと歯磨きセットがおいてあります。自分でフェイスウォッシュなどは持参していたので、ひと通り必要なものはあって不自由はなかったです。

能登イタリアンの食事とは？

白茄子に幻のチーズ・カチョカバロを載せて焼いた料理

女将さんのご主人、オーナーシェフのベンさん(ベンジャミンさん）は、シドニーでイタリアンレストランでヘッドシェフをしていた経歴があります。25年前に能登に来て、女将さんと結婚してこの宿を始めるにあたり、この能登の地の食文化を知り深く学ぶことで魅せられた「発酵食」を取り入れた「発酵イタリアン」を始めたのです。自家製で美味しいと評判の「いしり」が料理の隠し味となり、ここの料理に深みを与えているのです。

自家製フォカッチャを付けて食べる特製ソースとは？

たとえば能登産カボチャのスープにも、いしりのクリームが添えられています。自家製フォカッチャには、バターの代わりにソースが付きます。そのソースはタコの吸盤の他、魚の糠漬けのヌカやパセリなどが入っている発酵食のユニークで美味しいソースで、病み付きの美味しさです。
「あおりパスタ」という料理はベンさんのオリジナルの逸品。イカ墨を敷き詰めた上にクリームパスタを載せて、アオリイカをトッピング。これもまたいしりを加えたクリームパスタです。最初はクリームだけのパスタを食べて、途中からイカ墨を混ぜて味変を楽しめる不思議な料理で、なぜか後を引く美味しさで完食してしまいました。
肉は出なくて魚介のみ。どれもが優しい味付けで家庭的な料理です。奇をてらうことはなく、新鮮な素材で作る発酵イタリアン、すなわちベンさんの能登イタリアンを堪能できたのです。

能登の家族になれる、ふらっとの朝食

今朝は栗ご飯炊きましたよ。女将の言葉に歓声が上がる

女将さんはひたすら明るく、気取らず元気でシャキシャキ、もてなしの心を感じる宿です。ベンさんと22歳の息子さん、20歳の娘さんの4人家族で、ここに泊まっていると親戚の家に遊びに来たような気分になりました。いつも奥の方から笑い声が聞こえてくる陽気な宿なのです。
ここでの朝御飯は、「能登のあたりまえの暮らし」を体験できるものです。今朝は下の栗の木で栗が採れたから栗ご飯にしましたと女将さん。やったー！

これが発酵食のひとつイワシのぬか漬けのこんかいわし

朝御飯のメニューは能登の発酵食オンパレードです。大きなお椀にたっぷり入ったあら汁。薄味でホッコリする味で、鯛の大きなあらや椎茸が入っています。大根の皮で作るきんぴらは皮でも無農薬だから安心なのです。囲炉裏で串に刺して焼いた海餅は、いしりの炊き込みご飯で作るそうです。
「ほんの少しだけでもご飯1杯いけてしまう」と女将さんが言う3年物のイワシの糠漬けである「こんかいわし」などなど、ご両親直伝の「さんなみ」から続く朝食の品々です。「いしり」や「こんかいわし」は能登の発酵食として世界農業遺産に認定されたのだそうです。世界遺産を食す、何とも贅沢な朝でした。(2021年9月訪問）

宿のデータとまとめ

富山湾を眺めながら過ごす幸せな時間

宿のデータ

宿の地図

気さくな女将の船下智香子さんと

まとめ

いかがでしたか？能登のあたりまえの暮らしを味わえる宿として人気の高いふらっとさん。能登の食文化を満喫できるユニークで貴重な宿としての、「さんなみ」の後を引き継ぐ宿としての魅力にあふれています。一度訪れて、いしりの料理を味わってみてください。

＊以前、紹介された別のペンギン案内人の記事はこちら↓

能登イタリアンの宿ふらっと（能登町/石川県）～能登イタリアン民宿

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2021.01.06