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謎のレストランのひとつとして、全国のグルメな人々の間で知られている予約困難なイタリアンのお店がこのf (エッフェ)さんです。なにしろ情報を探しても場所も電話番号も非公開で、長い間行きたくても行けなかったのです。やはり謎めいているほど行きたくなるものです。
知り合いのフレンチのお店のマダムにうまく紹介してもらって、やっとのことで行くことができました。だいぶ前から予約して、2021年10月中旬のディナーにお邪魔しました。奇才と呼ばれる宇佐美浩太郎シェフが生み出す料理とは?
なんで完全紹介制なのか?
結論から言えば、このお店ははっきり言って万人向きではありません。シェフは自分の料理を理解できる人だけに来てほしいのではないでしょうか?だから然るべき常連さんたちからの紹介者しか受けないのです。
一人ですべてをやっているからとにかく忙しいのでしょう。予約をするいちげんさんの電話に対応している暇はないのです。モノの分かったゲストだけを相手にしたいとの気持ちもわからないではありません。
しっかりした紹介者がいれば、変な予約は入りません。だからよくあるリコンファームの電話なども一切する必要がなく手間が省けます。変なドタキャンなどもめったに発生しないのでしょう。
人間誰しも謎めいているお店に惹かれるものです。そして口コミでその味の良さは保証されています。そうなれば予約は途絶えることはないでしょう。安心して料理に打ち込める、いわば料理人にとって理想的なシステムを構築されていると言えるでしょう。
シェフのひとり芝居の舞台の始まりです
カウンターのみなので、目の前でシェフの料理風景を見学できます。19:00一斉スタート、といっても私たちがお邪魔した夜は他にもう1組のご夫婦だけで計2組。
メニューは一切ありません。何がどんな順で出るかも不明です。
品数12皿をアシスタントもサービス係もなく一人でこなすのはやはり大変そうです。お料理中は一切のおしゃべりはできないムード。
でも流れるような動きで調理が進みます。シェフのひとり芝居の舞台を眺める観客の気分です。俳優の舞台中は観客は話かけることは憚られます。そんな気分とでもいえるでしょう。
中盤以降はその場で思い付かれた料理なのかわかりませんが、目の前で玉ねぎを剥いで刻むところから始めた料理もありました。まるで料理講習のよう?ゲストはじっと見つめています。何ができるんだろうというワクワク感。
合計3時間越えの長丁場のディナータイムでした。かなりボリューミーで、すべてを完食することは私には難しかったのですが、この内容でコースの料金が10000円というのはコスパがかなりいいものでした。
品数が多いのは、敢えていろいろトライしてゲストの反応を見ているようです。聞く所によると、毎回出すものが異なるというので、新たなトライを続けているのでしょう。どれだけ引き出しが多いのか?行くたびに違うものが出れば、常連さんは嬉しいでしょう。シェフは仕事とはいえ、ご自身の趣味的要素も強いように感じました。気に入ったお客さんにはたくさん出して、気に入らないお客さんには5皿で終わりとか。あくまで噂ですが。
お客さんがシェフに気に入られようと気を遣うのもどうかと思いますが・・・・
本日のお料理内容
シェフのトライアルはすべての料理に斬新な工夫となって現れます。素材をシンプルに味わう料理とは真逆で、いろいろ試して料理し尽くしていく感じです。見映えはあまり気にされない料理のようで、後で写真を見ると、よく似た茶色っぽい色目のものが並び、いわゆる「映える」ものはありません。すべてが食材の取り合わせの妙や味で勝負のようです。
スピーディーに作り上げてなるべく熱々焼きたてで出してくれるのがいいところです。最初に出た焼き茄子にのどぐろを併せた1皿は、茄子にオレンジの香りがするオリーブオイルを使い、シチリアの松の実も添えられます。のどぐろも香ばしくていい味です。
そしてもっとも驚いたのは「とんぶりキューブ」です。プチプチのとんぶりをたっぷり使ってボタンエビを繋ぎにしてキューブ状に。甘エビや芝海老のソースを付けて頂きます。エビの塩気のみ。ナツメグとエビの殻を砕いたものを下に敷いてあります。とにかく、これは何?と思わせられる見たことのない味と食感はユニークのひと言です。
この後もどんどんさまざまな食材が手を変え品を変え登場し、飽きさせることがない構成でした。
そんな中でシェフは食材を無駄にしないで丁寧に保存しておられるのがわかりました。4分の1くらいになったバナナやリンゴなどもラップをかけて丁寧に保存。ゲストの前でそういった地味な部分もさらけ出して見せているのが、好感が持てました。
シェフは優しい方のようですが
・・というのは珍しく私がシェフに話しかけず、ほとんど会話がないままお店を出てしまったため、推測も混じっていますが。
最初来店して飲み物をオーダーする際に、シャンパーニュお願いします、と言った私に、「うちはイタリアンなのでシャンパーニュはないですよ」との答え。ちょっと何言ってるの?的ニュアンスなのでびっくりしました。最近イタリアンのお店でもシャンパーニュを置いている店も増えているのですが、ないということなのでスパークリングをお願いしました。娘はノンアルコールの何か飲み物を・・・と頼むと、ノンアルコールドリンクはありませんよ。水しかありません、との答え。普通の店ならつっけんどんな対応にムカッとするところでしたが我慢して水を頂くことに。そういうコンセプトなんですから仕方ないです。そういえば最後のコーヒーも出されません。
なんとなく偏屈そうに見えたシェフですが、一心不乱に料理を続けられる姿を眺めているうちに、見方が変わるようになりました。やはりこれだけ料理の道を究めていると、他のことには気が回らないのかもしれません。
3時間越えの長丁場の一人芝居の舞台も終わりを告げ、渾身の演技を終えた俳優のように、シェフはホッと一息、カウンターの中でグラスに赤ワインを注ぐと、グビリと流し込み、最後に初めてニコリと笑顔を見せたのです。
その顔を見て私はシェフは実は優しい方だと確信しました。そして心の中で「お疲れ様でした」と大きな拍手を送ったのです。
まとめとデータ
まとめ
本当のところ、もっと時間があればシェフの話を聞きたかったのですが、その夜はもう遅いので失礼しました。チャンスがあれば、今度行くことがもしあれば、ちょっとずつでも話しかけてみようかなと思います。
(2021年10月訪問)
データ
店名 | f (エッフェ) |
ジャンル | イタリアン(イタリア料理) |
住所 | 秋田県秋田市中通 以下不公表 |
電話 | 不公表 |
予約 | 完全予約制 完全紹介制 |
席数 | カウンターのみ6-7席使用 |
個室 | なし |
予算 | ディナーのみ10000円 |
お店のwebアドレス | なし |