今から20年ほど前、確か1997年夏だったかと思います。京都の母が私に父の法事について相談をしてきました。
「ご近所の木乃婦さんで仕出しを頼もうと思うたけれど、20人も来たら家の中が窮屈やさかいどうしよう?」木乃婦さんとは当時名の知れた仕出し屋でした。
京都の実家周辺では法事をする場合など、仕出し屋さんに「仕出し料理」を頼むのが一般的でしたが、人数が多いため家では入りきれない。それに中には口うるさい親戚もいるのでどうしたらいいかということでした。
それで2度ほど訪問をした料亭、菊乃井での法事をすることにしました。理由は2つ。ここだったら、田舎から来る親戚もびっくりするし喜んでくれるだろうということと、見た目ほど金額が高くなかったことからでした。
さて、法事の当日。
京都を代表する格式と風格を備えた料亭での法事は盛り上がっていました。
宴もたけなわの頃、女将が薄色の喪服姿で登場し、挨拶を始めました。予期せぬ展開に私はびっくり。その場も一瞬ひきしまった雰囲気に。その後、女将はみんなの輪の中に入り会話を楽しむ姿が。何かしら、温かい気持ちになりました。
帰る道中、親戚の一人は一生の思い出に残る法事にしてくれたことに感謝したうえでこういいました。
「建物も料理も本当にすばらしかった。想像したとおりだった。しかし、一番心に残ったのは女将のもてなしだった」と。
法事と知った上でのもてなしのことを言っていたのでょう。私も同感でした。親戚をびっくりさせるつもりが、一番驚いたのは私だったのかもしれません。
2020年9月、久しぶりに菊乃井を訪問しました。建物をリノベーションされ、より高級感とやすらぎを感じさせてくれます。女将も代替わりしました。今の女将に先代の大女将の思い出話をすると、大女将はご隠居されたもののご健在の様子。「お義母さんも喜んでくれはると思います」とのこと。今の女将も先代に負けず劣らず応対が素晴らしい。
菊乃井はこの20年で大きく変わりました。東京・赤坂に出店。赤坂菊乃井はミシュラン2つ星に。また本店は大改装、そしてミシュラン3つ星に認定・・・。
「料亭をただの高級なものにしたくない。お宮参りや、成人式、結婚、法事など人生の節目に料亭がある。普通の人が特別な日に少しだけ贅沢な時間が過ごせるような、そんな場でありたいと思います」とは3代目主人、村田吉弘さんの考え方です。
見た目は大きく変わっても、菊乃井は昔と何も変わらない。人生に寄り添う料亭を目指しているという点では。
(2020年9月訪問)
レストラン名 | 菊乃井 本店 |
ジャンル | 日本料理 |
住所 | 京都市東山区下河原通八坂鳥居前下ル下河原町459 |
TEL | 075-561-0015 |
予算 | ランチ10000円から ディナー16000円から |
座席 | 120席 |
個室 | 有 |
予約の可否 | 要予約 |