この宿はかつて「いきかえりの宿 瀧波」という団体客向きの古いタイプの旅館でした。それこそ宴会場でたくさんの客が並んで食事をする、あまり泊まりたくない旧式の宿。それが経営面でピンチとなり、あの旅館再生を手がける「自遊人」の編集長・岩佐十良氏に再生を依頼することとなり、3年余り前に見事リニューアルオープンしたのです。
建物は部屋数を19室に減らし大きく改装、全室に露天風呂を造りました。1階の部屋は楕円形のがっしりした石風呂。2階は檜風呂です。源泉掛け流しはダイレクトに供給される生まれたての源泉で、美しく透明な湯にはキラキラ光る湯の花が散っていて身体の芯から温まり、つるっとしてお肌にもよいお湯です。
再生はもちろんサービス面、食事面にも大きな変化をもたらしました。かつて6代目の当主であった須藤清市氏は再建時社長を辞し、今は農業をしながら自ら作った米を旅館で使用。現在も元気で接客にもいそしんでおられるようです。弟の南浩史氏が再建計画の旗主で現社長。支配人の小林新明氏は3年間毎日そば打ちを欠かさず、「そば打ちパフォーマー」としてゲストの給仕、ソムリエとしてお酒の説明までこなします。
料理長大前拓哉氏はかつては古いスタイルの料理を作っていたのですが、再建時なんと58歳にして岩佐氏経営の新潟県の旅館「里山十帖」のキッチンで4か月勉強。今ではこのオープンキッチンで山形の滋味溢れる料理の数々とライブ感いっぱいのカウンターでのパフォーマンスを提供しているのです。大前氏の山形弁での朴訥としたしゃべりも味わいを添えて、食事の美味しさと共に楽しいディナータイムとなるのです。
トップの面々が自ら接客の現場で頑張ることで、皆が一丸となって盛り上げようと一生懸命。温かなもてなしをしようと、すべてにおいて意欲的なこの旅館に私は感動しました。プライドと一緒に古い考え方をすっぱり捨て去り、どんどん新しいものを取り入れようとする努力が実ったのです。モダンで居心地良く、食事も美味しくてサービスもいい。3拍子揃った温泉宿は若いお客さんもたくさん泊りに来るようになり、今では連日満室の賑わいを見せているようです。
「いきかえり」を果たし今なおその挑戦を続けているこの旅館に、私も心からのエールを贈りたいと思いました。
(2020年10月訪問)
旅館名 | 山形座 瀧波 |
住所 | 山形県南陽市赤湯3005 |
TEL | 0238-43-6111 |
お風呂 | 大浴場 露天風呂 |
予算 | 2人部屋利用の場合 1人 40000円~ (2食付) |
露天風呂付客室 | 全室露天風呂付き |