その夜は例年にない大寒波が来ていた日でした。青森の弘前市は40~50cmの積雪で、東京では見たこともないような大雪。ずっと昼も夜も雪は止まらず降り続いていました。タクシーで目指すレストランに向かいますが、ナビの付いていない車で、良くわからないまま適当なところで車を降りてしまいました。それらしい路地を入っていくと、お店どころか人も歩いていない、新雪が一面に積もりサラサラのパウダースノーの真っ白な世界。子供だったらはしゃぎそうですが、雪靴も履いてなくて夜に暗いところで遭難した気分。彷徨った挙句、やっとたどり着いたレストラン「オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ」は暖かく居心地のいい天国のようなお店だったのです。
オーナーシェフの笹森通彰氏は国内やイタリアのミシュラン店などで修業の後、2003年8月にこのお店をオープン。地産地消は今では珍しくないけれど、氏は種を植えて育てるところから野菜作りにこだわり、自家製のチーズや生ハム、そしてワインまで作り、ワイナリーも経営しておられます。
TV(情熱大陸)でもその様子が取り挙げられて、全国からファンがこの地へ足を運んで食べに来るようになったのです。
ディナーのみで、おまかせ12000円という1コースのみ。9皿の料理プラスアミューズとプティフールという充実したメニュー構成です。まずアミューズは新鮮なクジラの一口カルパッチョのハーブとキャビア添え。一緒に頂くのはラベルも可愛い自家製のワインとアップルワイン。ノンアルコールの人向きには自家製リンゴジュース。リンゴの産地だけあってジュースも極上。
次はマッシュルームと根菜のサラダ仕立て柚子ソースとバーニャカウダソース、リーフ型のジャガイモチップ添え。自然な旨みを感じる自家製の根菜は身体を芯から温めてくれるのです。
ハムの盛り合わせは、自家製の生ハムや豚肉のペースト、ガーリックポークなど、付け合せの干し柿とよく合います。ワインが進むこと!
次に焼きバナナみたいな不思議な物体が登場。聞くと雪下人参で甘くてなめらかな食感は人参と思えなくて、数種のスパイスやチーズ、卵黄のソースに加え、最後に黒トリュフを目の前でスライスしてかけてくれます。贅沢極まりない人参の完成です。
金目鯛の鱗焼きは香ばしく、たくさんの野菜が彩りを添えます。パイ生地にフォアグラと安納芋のペーストを合わせ、紅茶などの甘酸っぱいソースをかけたら、爽やかで味わい深い一品に。
冷製パスタの雲丹と毛ガニ入りはお口直しのようなパスタで、あまりの美味しさに目が覚める気分。
そして今回最高のひと品へ。それはラビオリでした。(冒頭の写真参照)表面を玉ねぎとクミンで焼いて風味を付けた肉の入ったラビオリをダブルコンソメに浸してあり、36ヶ月のパルミジャーノチーズをとろけさせ、細切りのスペイン産黒トリュフをかけてあります。こんなに手間暇かけたラビオリは初めてです。口に入れた瞬間、これが私の待ち望んでいた味と確信したのです。夢でもいいからもう1回食べたい!!
メインの青森の健育牛のビステッカには赤ワインソースとリンゴなど組み合わせ絶品。デザートは黒いモンブランにびっくり。見た目に驚き食べて驚く美味しさ。竹炭を使った黒だったのです。
その夜は雪深いせいか、とうとう他のゲストは来ず貸し切りでした。これほど素晴らしい料理を我々だけのために作って頂いて申し訳ない気分。わざわざ行った価値が十二分にありました。外はしんしんと雪が降り、静かで三密とも無縁に絶品料理を楽しめて、本当に幸せな夜でした。 (2020年12月訪問)
レストラン名 | オステリア・エノテカ・ダ・サスィーノ |
ジャンル | イタリアン(イタリア料理) |
住所 | 青森県弘前市本町56-8 グレイス本町2階 |
TEL | 0172-33-8299 |
予算 | ディナーおまかせコースのみ 12000円 |
座席 | 20席 |
個室 | なし |
予約の可否 | 予約可 |