日立駅から徒歩5分ほど。目の前に海が迫る通りを沿うように進んでいった先、現れるのが創業70年以上続く老舗日本料理屋「三春」です。
茨城県と言えば東日本大震災の折、東北同様強い揺れと津波が襲った土地。今回訪れた日立市も例外ではなく、地震の被害が酷かったのだと言います。地震や津波で人生が一変してしまった人はニュースなどを通じて見たことがありましたが、ここ「三春」も家屋の損壊が大きく、震災後はしばらくお店を閉店せざるを得なかったそう。
幸い海沿いとは言え高台にあるこのお店。津波が建物に迫ることはありませんでしたが、それでもお客さんを出迎えることが出来るようになるまで1年以上の年月を要したと言います。震災以前は料亭が何軒もあるような華やかな場所だったというこの場所も、今では「三春」1軒のみ。震災当時いた板前さんや家族も「三春」を去り、あとに残ったのは時々店の手伝いをしていた現女将だけでした。
右も左も分からない彼女でしたが料亭を自分なりの力で再起させ、2階にはカフェをオープン。今では料亭と言うよりもアンティークな家庭料理店といった風情です。それでも彼女がこの場所にこだわったのは、70年という店の歴史とそこに残る家族との思い出を大切にしたかったからなのかもしれません。
そんな「三春」でいただく料理は、やはり料亭というには素朴な家庭の味。全室個室で2,000円からいただくことが出来ます。今回私は全7品の3,000円のコースを選択したのですが、何故か茶わん蒸しのあとに出汁巻き卵が出て卵料理が続いたり、クリームコロッケが出てきたり…不思議な構成のランチでした。しかしこのお店の看板メニューは何と言っても最後に出てくる「笹巻ごはん」でしょう。
戦後すぐこの地に店を構えた、現女将の祖母にあたる初代女将が考案したというこの料理。もち米の中に鰻を入れて笹の葉で巻き蒸し焼いたこの一品は、昔からここ日立の人々に愛されてきたのだと言います。実は震災当時お店で料理を提供できない時期にもこの「笹巻ごはん」だけはオンラインで販売していたそうで、そういった意味でもこのお店にとって特別な料理なのです。今では鰻の他に地元のブランド豚である「ローズポーク」をタレで煮たてた甘辛い「笹ポーク巻ごはん」などもあり、お店の鉄板メニューとなっています。
今回私がいただいたのはそんな「笹ポーク巻ごはん」。たっぷりのご飯に巻かれているそれはボリューム満点。3日間かけて甘辛く煮込まれた豚肉はもち米との相性も抜群。他の料理よりも洗練され美味しさが際立つそれは、なるほど店の看板料理に相応しい味です。
どんなに困難な状況でも諦めずにここまで来た「三春」。これからもこの海の見える土地で長く続いてほしいと思わせるアットホームなお店に出会えました。(2021年2月訪問)
レストラン名 | 三春 |
ジャンル | 日本料理 |
住所 | 茨城県日立市旭町2-8-14 |
TEL | 0294-22-1567 |
予算 | ランチ¥2,000~ ディナー¥5,000~ |
座席 | 個室のみ |
個室 | 有り |
予約の可否 | 完全予約制 |