
特攻の母・鳥濱トメさんの孫とその息子さんが営むお店

特攻隊員の写真や思い出の品々が店先にも展示されて
鹿児島の南九州市にあるお茶の名産地として知られる知覧。この町には1945年、本土最南端の陸軍特攻基地となった歴史があります。第2次世界大戦末期の沖縄戦で、爆弾を装着した戦闘機もろとも敵艦に体当たりした特攻隊の出撃基地だったのです。まだ20歳前後という若さで死んでいった多くの隊員の遺影や遺品、家族に宛てた最後の手紙などの貴重な資料を展示した「知覧特攻平和会館」は見ごたえのある博物館として全国からの観光客を集めています。2019年トリップアドバイザーが発表した「日本の美術館・博物館ランキング2019」で博物館の1位を見事に獲得しました。
当時「富屋食堂」でそんな特攻隊員たちのお世話をしていたのが特攻おばさんと呼ばれる鳥濱トメさんでした。皆から母と慕われ、食事を作って励まし、隊員たちの話を語り継いでいったトメさん。彼女は言っていました。「一つしかない命を投げ捨てて散っていった若者たちの事…忘れてはならない」。
ひとりの若者がトメさんに「ホタルになって帰って来るから迎えてほしい」といって出撃し、帰らぬ人となったのですが、その夜、食堂には本当にホタルが1匹入って来たのだそうです。そんなエピソードから、富屋食堂の跡地に建つ資料館は「ホタル館」と名付けられました。

トンカツと釜めしセット1500円でこのボリューム!
トメさんのお孫さんである鳥濱明久氏は、トメさんから直接受け継いだ史実や遺志を30年以上にわたり語り続けておられます。その著書「知覧いのちの物語―「特攻の母」と呼ばれた鳥濱トメの生涯 」(きずな出版)でも詳しく書かれています。
そして鳥濱氏はホタル館の運営と共に、食堂「特攻おばさんの店 知覧茶屋」では、トメさんの遺志を引き継いで、彼女の作っていた本物の味を再現して、提供しているのです。
今回私は、知覧特攻平和会館とホタル館を見学した後、知覧茶屋でランチをいただくためにお邪魔しました。今は氏の息子さんである鳥濱拳大(とりはまけんた)氏が後を継いで、お父さんと一緒に食堂を切り盛りしているそうです。食堂を継ぐことは、同時にトメさんの残した多くの言葉を後世に引き継いでいくことに他なりません。今まで80万人を超える人々に長年にわたって特攻の事、トメさんの事を語って来たお父様のことを心から尊敬し、自分も同じことをすると決心されたという拳大氏の言葉に感動を覚えました。

富屋食堂跡地にある資料館「ホタル館」
広い店内には、特攻隊員の若者たちと笑顔で写真に写る若き日のトメさんの姿も飾られています。店先にも思い出の品々がギャラリーのように展示されています。ここも平和会館やホタル館と同様に見る人の心を打ってやみません。
靴を脱いで上がると、大広間にはたくさんの机が並んで、居心地のいい郷土料理屋さんらしいムードです。得意料理は釜めしで、渡り蟹、鮭と九州たらこ、鮭とイクラ、鳥とごぼう、古代米とサツマイモ、これら5種類から選べるようになっています。
トンカツと釜めしのセットは好きな釜めしと一緒にサクッと揚がったトンカツや茄子の煮物、里芋と大根の煮物、漬物、具だくさんで栄養満点の豚汁が付いて1500円という良心的なお値段が嬉しい限りです。釜めしは熱々の炊き立てで、おこげも美味しい絶品です。
かつて特攻隊の若者たちがトメさんにご飯を作ってもらって癒されていたという話を思いつつ、味わっていただいたのでした。
本当に若くして死んでいった隊員たちの思いを語り継いでいったトメさんは立派な人でした。観音堂を建てることを働きかけ、後には平和会館ができるきっかけともなったのです。トメさんなくしては特攻隊の歴史が語り継がれなかったと言っても過言ではないでしょう。
慰霊のために後に植えられたという桜の木々とたくさんの灯篭が通りに面して並んでいます。ここを訪れた私たちも、できる限りこの事実を語り継いでいかなければならない気がしました。
(2021年3月訪問)
レストラン名 | 特攻おばさんのお店 知覧茶屋 |
ジャンル | 日本料理・郷土料理 |
住所 | 鹿児島県南九州市知覧町郡17856 |
TEL | 0993-83-4774 |
予算 | 750円~ |
座席 | 70席 |
個室 | なし |
予約の可否 | 予約可 |