食の聖地・北海道。特に札幌は多くの美食店が軒を連ねるグルメ好きには堪らない街です。しかしそれと同時に、昨今のレストランはそれぞれ“オリジナリティ”や“個性”を求められる時代になっています。
そんな中で一際異彩を放っているのが「TAKAO」というイタリアンレストラン。南円山エリアの住宅街にあるこちらのお店は、ミシュラン1ツ星にも輝いた人気店。国内だけでなく海外のメディアからも多く取り上げられています。しかしいくら星付きレストランとは言え何故ここまでピックアップされているのか…その秘密はこのお店のコンセプトにあります。
イタリアンに日本料理の要素を取り入れたり、地元食材を使用しているお店は全国にごまんとありますが、なんと「TAKAO」のシェフ高尾僚将氏が注目したのはアイヌの食文化。とは言っても、正直ピンと来ない人が多いでしょう。私もその内の一人で、食にかかわらずアイヌ文化はなんとなく謎に包まれているイメージでした。
そもそも何故シェフはアイヌ色を取り入れようと思ったのかと言うと、以前支笏湖畔のイタリアン「アズール」で働いていた時の経験が基になっているのだとか。当時山菜やキノコを採るために毎朝野山へ足を運んでいた高尾シェフ。そこでアイヌの人々と知り合い、食べたことの無い食材やその保存方法を学んだのだと言います。今でも彼らとの交流は続いているようで、シェフのつくる皿にはそうしたアイヌ料理の知識がふんだんに込められているのです。
コースは全8品から成る17,600円のお任せコースのみ。アイヌの食文化の中でもとりわけ「森」にテーマを絞っているようで、見たことも聞いたことも無いような食材の現物を見せて分かりやすく説明してくれます。
このお店のスペシャリテは「山のエキス」と呼ばれるスープ料理。なんとこれ1人前にマッシュルームを30個も使用しているらしく、まさにマッシュルームの旨味をギュッと凝縮させたスペシャリテに相応しい一皿。そこに北海道の固有種であるエゾイソツツジの蒸留液と白樺の酵母液、そして生クリームを加えこれ以上無いスープ料理へと仕上げています。「熱が冷めると味が落ちるので早めにどうぞ」と説明を受け、慌てて写真を撮りひと口。こんなに衝撃的な美味しさのスープがあるなんて…一緒に盛られたホタテとの相性も勿論最高で、一瞬で胃袋を掴まれました。
次いで出てきたのは2つあるパスタ料理のうちの1つ。春ニシンをオニグルミという木材でスモークして香りをつけ、グリーンアスパラと合わせたパスタ。上にはカリカリとしたソバの実で食感のアクセントも忘れません。香り、食感、発想の斬新さ…どれを取っても完璧な料理で、食材の組み合わせが上手いなと感じました。
またアイヌ文化が散りばめられたパスタも欠かせません。自家製のパスタは、アイヌの人々が団子として食べるトゥレプ(百合根の一種)を、潰して水の中へ入れ、沈殿したデンプンと小麦粉を合わせパスタ麺として使っているそう。その食感はモチモチとして歯ごたえが良く、ソースともよく絡みます。ワタリガニを20㎏も使用したというソースは、一見重たそうな見た目ですが自然の甘みが感じられる逸品です。
全体的にレベルが高く、これは2ツ星だって夢じゃないと思えるような素晴らしい料理の数々でしたが、唯一デザートだけはあまり口に合いませんでした。今回訪れたのが春だったためお皿のテーマは桜。桜のジュレやジェラートをフキノトウのパンナコッタと共にいただくのですが、気をてらいすぎていてだいぶクセのある味でした。単純に好みもありますがクリーム系やお肉料理を食べた後なら、フルーツ系のサッパリとしたデザートの方が嬉しかったです。
今までどこか遠い国の話のようにしか感じていなかったアイヌ文化ですが、今回「TAKAO」の料理で一端に触れてその奥深さに感心しました。それと同時に、扱いづらそうなそれらの食材を巧みに使いこなし、“アイヌイタリアン”という新たなジャンルを確立した高尾シェフの技量に驚かされます。間違いなくいま札幌で一番熱いイタリアンである「TAKAO」。是非一度味わってみてはいかがでしょうか。(2021年4月訪問)
レストラン名 | TAKAO(タカオ) |
ジャンル | イタリアン/イタリア料理 |
住所 | 北海道札幌市中央区南3条西23-2-10 Condo Maruyama KIRARI 1F |
TEL | 050-5456-6924 |
予算 | ディナーのみ17600円〜 |
座席 | 14席 |
個室 | 無し |
予約の可否 | 完全予約制 |