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多くの文人墨客や維新の志士達に愛されてきた山口県湯田温泉にある「松田屋ホテル」。国の指定文化財にも指定されている庭園が目の前に広がり、湯質豊富な温泉を引いているこの宿は、三百年あまり続く超老舗旅館の一つです。
偉人たちは一体この宿のどこに魅了されたのか。実際に泊まって確かめてきました。
見事な庭園 指定文化財の宿
名前からするとなんとなく近代的な大型ホテルを想像しますが、実際の「松田屋ホテル」は純和風。ホテルというより旅館と言われた方が断然しっくり来ます。清潔感はあるものの、ところどころ年季が入っていて老舗旅館らしい歴史を感じさせます。それもそのはず、「松田屋ホテル」の創業はなんと340年以上前、江戸時代にまで遡るのです!
1675年、「松田屋ホテル」が出来た年はまだ徳川4代将軍の時代。ペリーが訪れるのはそこから更に180年近く経ってからなので、いかに長い歴史があるのかが分かると思います。
これだけ長くやられている旅館ともなると、誰もが知る歴史上の偉人たちも幾度となく宿泊していたそうで、特に幕末の時代を生きた維新の志士達が身体を休めに訪れたという記録も残っています。
これだけでも十分凄いのですが、「松田屋ホテル」が他と違うのは庭園が国の指定文化財に登録されていることにあります。季節の移り変わりが楽しめる回遊式の日本庭園は300年以上の歴史がある特別な場所。池には色とりどりの立派な錦鯉が悠々と泳いでいて趣があります。司馬遼太郎の著書にもこの庭園の赤松が登場していたり、西郷隆盛・木戸孝允・大久保利通の会見所があったりと、歴史に疎い私でもそのスケールの大きさにびっくり。早めにチェックインして散歩するのもオススメです。
101号室は庭園の正面で良い部屋なのだが…
さて今回私が宿泊したのは、そんな日本庭園に面した#101号室のお部屋。本館客室の中で一番グレードが高く、内風呂も石風呂の天然温泉です。お部屋に居ながら文化財のお庭を堪能出来るのは勿論のこと、窓を開けてそのままお庭に出ることも可能です。
ただ一つ問題があるとすれば、こちらから庭がよく見えるということは庭からもお部屋の中がよく見えるということ。文化財に指定されたことで宿泊客が庭園の散歩に来ているようで、かなりお部屋の近くまで人がやって来ます。残念ながら人の視線が気になってあまりくつろげませんでしたし、せめて時間制限でも設けるべきだと感じました。旅の疲れを癒すのが旅館のはずなのにこれでは本末転倒です。結局浴衣に着替える際もゴロゴロとする際も、庭から見えない奥の方の小さな部屋で過ごすなど気を遣ってしまいました。
しかしお部屋自体の雰囲気は悪くなく、風格ある老舗旅館といった空間。畳張りになっていて、床の間や化粧台などから長い歴史を感じさせます。また内風呂が天然温泉なのも魅力です。
お部屋は本館が10室、新館が21室あるのですが新館は湯田の町並みビューなので、お部屋から庭園を眺めたい方には本館での滞在がオススメです。新館のお部屋はバス無しの8畳和室から露天風呂付きのお部屋までさまざまタイプがあります。お得に宿泊ということなら新館のバス無し部屋も考えられます。
大浴場が面白い!!
維新の志士達をはじめ山口県の詩人・中原中也など多くの文化人に愛されてきた「松田屋ホテル」には、家族風呂2種を含め計7つのお風呂があります。
中でも特にユニークなのが大浴場の「蔵の湯」と、それに併設された小さな露天風呂。それぞれ「龍馬の湯」「おりょうの湯」と呼ばれていて、実際に坂本龍馬が入浴したことで知られています。「おりょうの湯」は女性に嬉しいアルカリ性の泉質で、肌がすべすべになる美人の湯とも言われています。この新しい「蔵の湯」が一番のおすすめです。
また、「蔵の湯」とは対照的に開放感あふれる造りになっているのが「花柏の湯」です。天井から簀の子までヒノキを使用しているため一歩足を踏み入れると木の良い香りを感じるはず。こちらは併設されている露天風呂「白狐の湯」と合わせて、天然温泉の源泉かけ流しです。
また浴槽から洗い場まですべて岩で出来た無骨な雰囲気の大浴場「岩の湯」の存在も面白いです。こちらは深湯と浅湯になっていて、それぞれ分かりやすく青と緑の照明が落ちています。
ただ少々サービスが古臭く、バスタオルをわざわざ部屋から持って行ったりする必要があるのでそこら辺はどうにかならないかなと思いました。
食事とサービス
瀬戸内海や日本海に囲まれた山口県では新鮮な海の幸が豊富に水揚げされます。「松田屋ホテル」では、四季折々の食材を使用した地方食を楽しめます。
ほとんどの人が食事処で食事をしているのですが、本館の数室だけは部屋食らしく私たちは朝夕共にお部屋での食事になりました。料理は「長州四季会席」という名前で、山口県の食材を使ったローカル色溢れる料理で旬の恵みを楽しめました。
しかし山口県の旅館にも関わらずフグが苦手であることを伝え忘れてしまって、フグ鍋にフグの唐揚げなどフグ尽くしになってしまったのが少し残念でした。
また「温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいうちに」というこだわりがある割には料理が冷めているのが気になりました。特にご飯はこのレベルの旅館になると今時土釜で出すのが当たり前なので、少し冷めた状態で出てきたのが残念。
ただベテランの仲居さんのサービスはとても良く、私たちのお部屋を担当してくださった方はとても丁寧で感じのいい方でした。
自分たちが昼にフレンチを食べたせいでお腹が減らず、かつ苦手なフグであったので食べ残したところ、料理に問題があったのかとすごく心配してくださいました。こちらが申し訳なかったものの、そういった心遣いはとても嬉しく、大切だと思いました。
データ
宿名 | 松田屋ホテル |
住所 | 山口県山口市 湯田温泉3-6-7 |
電話番号 | 083-922-0125 |
お風呂 | 大浴場、露天風呂あり |
露天風呂付き客室 | 有り |
予算 | 2名1室利用時、1人当たり1泊¥19,360~(朝食付き) |
宿HP | https://www.matsudayahotel.co.jp/ |
まとめ
設備の古さや庭園からお部屋が丸見えという事に関しては改善の余地があるので、今後に期待したいです。
しかし「松田屋」で代々受け継がれてきた「お客様本位のおもてなしを心がけるように」という言葉。今回実際に泊まってみて、まさにその言葉通りの気持ちのいいサービスを受けられたように思います。そんな「松田屋ホテル」だからこそ、こうして江戸時代からずっと変わらず愛されているのだと思います。親切な仲居さんは「スーパー家政婦」ならぬ、まさに「スーパー仲居さん」と言うべき松田屋ホテルの「宝」。車で出発する時、最後見えなくなるまで手を振ってくれたことも印象深かったです。(2021年10月訪問)