木枯らしの吹く道を私は梅田から福島に向かっていました。ミチノ・ル・トゥールビヨンというフレンチレストランに向かうためです。「料理人という生き方」という本をアマゾンで購入した私はどうしてもこの店に行ってみたかったのです。
シェフの道野正氏。66歳。同志社大学神学部卒業。哲学書をよく読む青年が選んだ進路はなぜかフレンチのシェフでした。神学と同じ雰囲気の難解さがあったからでしょうか?京都のフランス料理店で修業のあと、渡仏。帰国後「シェ・ワダ」に勤務。
1990年大阪府豊中市にミチノ・ル・トゥールビヨンを開店、独立します。ほどなく、大人気店となります。「アヴァンギャルド」「奇才」「フランス料理界の異端児」・・・時代の寵児としてもてはやされ、ミシュラン2つ星の栄誉も得るようになります。しかし栄光は長くつづきませんでした。やがて大きな挫折を経験し、豊中の店を追いだされ、長い長い苦境の生活が続きます。
それが、なんと2020年の現在、「ゴ・エ・ミヨ」で15点 3トックの店に復活を果たしていたのです。
福島にあるお店は20席ほどのこじんまりしたお店でした。シェフと、奥さんであるマダムと、もう1人のスタッフで切り盛りされていました。ランチは5000円のコース1本でした。スープ、前菜、本日の魚料理、肉料理、デザートの5品のおまかせです。ミルクのカプチーノを乗せたカボチャのポタージュは優しさに包まれるような幸せな気分になるスープ。寒い道を歩いてきた人にはぴったりの品です。前菜はスモークサーモンのキッシュです。シャキシャキ爽やかな野菜のサラダにはカブのピクルスも入っていて、甘くておいしい。本日の魚料理はマナガツオとカボチャのリゾットです。フレッシュなブロッコリーがいい取り合わせです。
ここでの料理はかつては前衛的と言われた面影はありません。でも理屈なく美味しく食べられます。
「料理人という生き方」は変わった本でした。そもそも表紙が金髪の道野氏のアップの写真。中身は20年間のブログと料理のレシピが。「己の人生がぎっしり詰め込まれている、そんな料理を食べてもみせんか?」この本のそんなキャッチフレーズでこの店に来たいと思いました。コロナ禍で疲れている自分に元気をもらおうと感じたのかもしれません。
帰り際に本を差し出して、シェフに次のようなサインをもらいました。
「明日、世界が滅ぶとしても、今日、私はリンゴの樹を植える マルティン・ルター 2020年11月28日道野正」
人生が凝縮されたレストランで食事をし、元気をもらい、また日常に戻る・・・そんなレストランがこの店なのです。そしてシェフは「頑張りや」のひと言で私を見送ってくれました。
レストラン名 | ミチノ・ル・トゥールビヨン |
ジャンル | フレンチ(フランス料理) |
住所 | 大阪市福島区福島6-9-11 新林堂ビル1F |
TEL | 06-6451-6566 |
予算 | ランチ5000円~ ディナー12000円~ |
座席 | 20席 |
個室 | 無 半個室あり |
予約の可否 | 可 |