「花屋旅館」は、20代の一時期、京都にたくさんある片泊まりの宿(夜ご飯がなくて朝食のみなので片方だけの宿という意味)にはまっていた私が見つけた京都の常宿。春夏秋冬と毎年毎年、京都に長くたくさん通えたのは、良心的な宿「花屋旅館」さんがあったおかげです。
20代の私にとって京都は、学ぶために日中は歩き回り、取りこぼさないように計画をたて、たくさんの人に教わりながら精力的に市内を観光していました。京都はやはり敷居が高く、宿も何となく緊張する所が多かったのですが、花屋旅館は最初に伺った時から、何となく力が抜けて心地良かったのが常宿になった理由です。先代の女将さんは、何度行っても私のことを忘れてるふりをしてくれて、「前も泊まりに来てくれはったん?」と声をかけてくれました。その距離感も心地良かったのです。今の4代目の女将さんも初めて行った時からのお付き合い。顔を見ると安心して、長く通ううちに京都にこんなほっとする場所が出来たんだなと思います。
阪急河原町駅を四条通りから下がった路地裏は、京都らしい風情が残っているエリア、その高瀬川沿いに宿はあります。近くには豆腐の名店「近喜」や、千枚漬けで有名な「村上重本店」、人気があるためとても予約が取りにくい割烹料理の「食堂 おがわ」などがあります。
4代目の女将さんが嫁いできた頃は、近くにはお店もそんなになかったので、希望者にだけは夜ご飯も提供していたそうですが、宿のそばにお店も増えたことで片泊まりの宿へ移行していきました。大阪で商売をされていた初代ご主人が、別邸として建てられた趣のある建物は、実家を建て直してしまった私にとっては一番古い大切な建物。町屋なので冬は寒いなどの不便はありますが、勝手に身体が馴染むというのか、ほんとうに自分にとっては落ち着く空間です。
高瀬川の見える和室に、一組ずつ通されていただく定番の朝ごはんは、毎回楽しみ。
一つ一つ吟味された卵焼きやお漬物、宿の目の前にあるお豆腐やさんの「豆腐」や「ひろうす」などが並びます。油抜きする必要のないくらい作りたての「ひろうす」は東京でいう「がんもどき」、これがこんなに豪華で美味しい物だということはこの宿で教わりました。
この建物には玄関が2つあって、宿と裏で繋がっている面白い造り。そのもう一つの空間は、長く人に貸していましたが、数年前に「花屋喫茶」というカフェに生まれ変わりました。1人でも入りやすいし、大切に取ってあった物を生かしたとても素敵な空間です。
この四半世紀でほとんどの京都の店は代替わりしました。そして無くなった店もたくさんあります。この宿は、できればものを大切にする、価値のわかる人に文化財に泊まるような気持ちで滞在して欲しい。そしてこれからもずっと続いていって、いつ京都へ行ってもたち寄れる場所であって欲しいと心から願っています。 (2020年3月訪問)
旅館名 | 花屋旅館 |
住所 | 京都府 京都市 下京区西木屋町通四条下ル船頭町201 |
TEL | 075-351-4398 |
お風呂 | 順番に貸し切りで使用 |
予算 | 7.800円〜(1泊朝食付き 宿泊税200円別) |
露天風呂付客室 | なし |