能登半島には魅力的な宿がたくさんあります。珠洲市の「湯宿 さか本」もこの方面に行く機会があったら絶対に泊まろうと思っていた宿です。観光はほどほどにして、細い道の先にある雑木林の中の宿へ。事前にご説明いただいていたチェックイン前でも後でも自由に使える、母屋から少し離れた所にあるゲストハウスを楽しみたくて、CD持参で早めに到着しました。ゲストハウスは床暖房が入っている石の床で快適。居心地の良い椅子に座って、思い思いに過ごせます。少しずつ日常から抜け出せてとても良い時間でした。
平成元年に建てられた母屋は、古い梁など長く大切に使われた建物のように感じ、こういう建築の出来る職人さんが現代にもいらっしゃるのだと感動しました。玄関は土間になっていて、建物の中には余分なものが何も置いていないので、広く感じ余白のたくさんある造りになっています。
廊下の部分は一部吹きさらしになっていて、部屋には冷暖房もテレビもお湯のポットもなくて、1階の広間に薪ストーブと囲炉裏があるだけ。この宿は禅寺にいるような清々しさがあって、滞在しているだけで宿のご主人の意向をすごく感じる、私の大好きなタイプの宿です。お風呂は竹林の中にあり、土地に湧く源泉温度17度の冷泉を薪で沸かして灯油で保温しています。12月の能登半島は寒かったので、いつも以上にお風呂には何度も何度も入りました。
夏は暑くて当たり前、冬は寒くて当たり前、現代の人が忘れてしまった季節に人間が合わせるでいいのです。今は絶版になっている「銀花」という良質な雑誌があるのですが、50年も昔の号が本棚に並んでいたので、ご主人はすごく年配の方なのだと勝手に想像していましたが、まだ60代なのだそう。そして魚骨の描かれたさか本のマークは、若い頃のご主人が書いた作品、魚骨=命をいただくことへの感謝を感じました。
蕎麦から始まる夕食は、滋味豊か。メニューだけみると一見普通なのですが、一つ一つとても真似のできない手の込んだ味。特に海老芋のフライはどうやって作ったのかクリームコロッケのようにとろとろで美味しかったです。そのあと、湯葉、蟹の足、地元料理の蓮蒸し、氷見ぶりのお刺身、ぶり大根、銀杏ごはん、お漬物、柿とりんご。
朝食は作りたてのがんもどき、お麩の卵とじ、ぶりの照り焼き、食べやすく炊かれている玄米ご飯、お味噌汁、お漬物、お茶。
夕食朝食共に宿泊しているゲストが一つのテーブルで食事をいただくスタイル。普段は他のゲストとはなるべく会わないことを好みますが、この宿に惹かれてくる人はやっぱり魅力的なのか、偶然なのか、何もないからこそ人と向き合うのか。一期一会にするには惜しいくらいの教わることのたくさんある人達と食事をしながら、とても楽しい時間を過ごすことが出来ました。
(2020年12月訪問)
旅館名 | 湯宿さか本 |
住所 | 石川県珠洲市上戸町寺社 |
TEL | 0768-82-0584 |
お風呂 | 大浴場 |
予算 | 2人1室利用の場合、1人16.000円~(2食付) |
露天風呂付客室 | なし |