「キメラ」──“由来の異なるものの融合”の意。
八坂神社の南桜門の目の前、祇園の街に溶け込むようにして佇むのがイタリアンレストラン「キメラ」です。初めてこの店名を目にした時「うわ、なにそのネーミング」と衝撃を受けた私。というのも私は趣味で漫画を読むのですが、作中で時折キメラと呼ばれる合成獣が出てくることがあります。ライオンに本来ないはずの羽や蛇の頭が生えていたり、人間と犬を合成させたり…正直「キメラ=薄気味悪いもの」というイメージを持っている人は多いでしょう。実は八坂神社に訪れる度に何度か目の前を通っていたのですが、その度に一体どんな料理を出しているんだろう…と気になっていた私。ある意味では最も関心度が高かったお店の一つでもあります。
2007年、祇園の町家を改装してオープンした「キメラ」。風情ある建物の扉を開けると現れるのはグランドピアノが置かれたたモダンなラウンジです。天井も高く開放感のある店内は、2階が客席になっていて洗練された空気が漂います。今回私が訪れたのは春だったのでまだシーズンではありませんでしたが、窓の外には紅葉が生い茂っていて、秋には赤く色づいた紅葉を楽しみながら食事を楽しむことが出来るようです。
実は食べログ京都の人気イタリアンでも2位に輝いているこのお店。シェフの筒井光彦氏は大阪イタリアンの有名店「ポンテヴェキオ」で10年近く務め、料理長を任されたこともあるという実力者なのです。
そんな「キメラ」の料理は店名のインパクトに反して繊細な創作イタリアンです。伝統的でシンプルなイタリアンとは違い、ひと手間も二手間もかけられた料理は味や食感が複雑に絡み合い他に無いオリジナリティが魅力です。私は今回1人1万円、計7皿のディナーコースを注文しましたが、その中でも特に気に入ったのが前菜の1皿。今が旬のタイラギ貝はモリーユ茸やアサリ出汁の泡、クリームソース、そして温泉卵と共にいただきます。モリーユ茸とは日本名でいうアミガサタケのこと。まるで「たけのこの里」のような形と色合いで、笠の部分がしわしわ~っとひだになっているのが特徴的なキノコです。そんな見た目の気持ち悪さとは対照的に香りが良く、クリームソースとの相性も抜群。温泉卵をスプーンで割って一緒に絡めて食べれば、角がとれてよりマイルドで重層的な風味へと生まれ変わります。
そしてメインのお肉は京都らしい鴨肉。なんとこの鴨肉、「キメラ」専用に飼育しているものらしく、低温調理でぎゅっと旨味を閉じ込めます。つけあわせはエシャロットの素揚げにフォアグラ、マイクロパプリカ、万願寺唐辛子。飼育にこだわったというだけあって鴨は身も柔らかく、クセの少ない風味はメイン食材にぴったり。一皿に胸肉とササミが盛られているのですが、部位によって異なる風味と食感を両方楽しめる贅沢な一品なのです。
全体的にレベルの高い「キメラ」の料理でしたが、前菜の盛り合わせやパスタなど味の濃い料理がいくつも見受けられ、それが少し残念な点でした。しかし八坂神社からの立地も良く、観光がてらに寄るのに最適なこのレストラン。しかも、京都の観光地価格になりつつある多くのレストランの中でランチは5,000円から、ディナーは10,000円からとリーズナブルな価格で提供されているところは評価できます。是非その店名に惑わされずに一流のイタリアンを体感してみてはいかがでしょうか。(2021年4月訪問)
レストラン名 | キメラ (CHIMERA) |
ジャンル | イタリアン/イタリア料理 |
住所 | 京都府京都市東山区祇園町南側504 |
TEL | 075-525-4466 |
予算 | ランチ¥5,000~ ディナー¥10,000~ |
座席 | 24席 |
個室 | 有り |
予約の可否 | 予約可 |