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滞在すること自体が目的になる宿ってあると思います。かつてアマングループのホテルに滞在した記憶は、不思議と何年経っても薄れることがありませんでした。そのように唯一無二のホテルを創業したエイドリアン・ゼッカ氏の偉業は計り知れず、ゲストをもてなすことはもちろんですが、宿のデザインの歴史を考えてもシンメトリーのベッド中心の客室は、アマン前とアマン後と明確に分けられるほど宿泊業界に多大なる影響を与えました。その氏が携わって今年の3月に開業した広島県生口島のAzumi Setoda、気にならないはずがありません。アマンで経験したような滞在が出来るのか、気づいたことをお伝えしたいと思います。
Azumi Setoda のアクセスと観光について
Azumi Setodaは、立地の選定からあえて便利ではない場所に宿を作り、人を呼び寄せる当初のアマンの考え方を思い起こさせます。
しかし実際に行ってみると、広島県にある三原駅からすぐの三原港から生口島の海の玄関口、瀬戸田港までわずか30分程度で、さらに港から宿まではなんと徒歩2分という非常にアクセスが良い場所であることがわかりました。島を船で渡るリゾート感と想定外のアクセスの良さは特筆すべき所です。
またしまなみ海道のルートへも自転車で行けて、瀬戸田自体にも、国宝の三重の塔で有名な向山寺や耕三寺博物館、平山郁夫美術館など魅力的な場所がたくさんあります。宿の近くにある「しおまち商店街」は、その名の通り、塩を待つが名前の由来で、瀬戸田港から耕三寺までの数百メートル程の通りに約50店舗が並ぶ商店街です。飲食店はもちろん、美味しいコロッケ屋さんやしまなみジェラードなどを食べ歩くことも出来ます。
今回の瀬戸田の滞在で、人の行き来や物流にかかせない路には、陸路と水路(海路)があり、その両方の路を中心に経済や文化が発展してきたことを改めて実感しました。生口島全体の観光としては、レンタサイクルが便利、海岸沿いに点在するアート作品はなんと17も。川上喜三郎「ベルベデーレせとだ」やレモンを思わせる眞坂雅文「空へ」。生口島全体がアートスポットというコンセプトの元、1989年「瀬戸田ビエンナーレ」の際に設置されたものです。また、生口島はレモンの島なのでレモン谷など生産者さんを訪ねるのもお勧めです。
Azumi Setoda の全容
海上貿易として栄えた堀内邸(商家名は三原屋)の旧家を改装して作られた本屋(母屋)は、宿にしては控えめな入口。中に入ると、高い天井や太い梁が重厚感があって落ち着く空間です。中央に階段があり、2階に上がると堀内家から寄贈された品々を展示している小さなギャラリーや食事が出来る個室、ラウンジなどがあります。2階からはダイニングを見下ろせて広々とした空間を楽しめます。
主屋は系列宿の「yubune」のちょうど真前にあり、控えめだと思った宿の入口も元々の堀内家の門だったそう。この宿のパブリックスペースは、門同様全て控えめな造りです。本屋のダイニングに面した場所に、四方を高い鞠垣(蹴鞠をする時は、周りを高い垣根で覆っていたそう)に囲まれた庭があります。四方には、松、桜、紅葉、柳が植っていて、桜は早咲きの河津桜なので今年2021年3月1日の開業の時には満開だったのだそう。鞠垣の左側には、元々堀内家の茶室だった場所に、エイドリアン・ゼッカ氏の書斎をイメージし、新築されたガラス張りの離れ「東家」があります。
ちょうど鞠垣の奥にあるのが新築2階建の客室棟です。建物に入ってからもさらに高い垣根で覆われていることで完全にプライバシーが確保されています。この宿の建築は、京都六角屋の三浦史郎氏、入口にある富士山の様な六角の形をしているオリジナルの盛り塩の型もそこからきています。
客室は全部で22室、部屋のタイプは、「庭」と「涼」(すずみ)メゾネットタイプの「空涼」「庭涼」の4タイプになります。部屋の大部分を占めるベットやシンメトリーの洗面台などアマンに慣れ親しんだ人には納得の配置です。また日本素材で造られているのも◎。「明珠在掌」本当に良いものは手元にあるので、その地に合わせるので良いのです。特にお風呂場の石の福光石は、すべらず夏はひんやりと、冬は床暖房も入るそうで一年を通して快適に過ごせそう。全室、オールスイートと呼ぶに相応しい客室です。
1階の箱庭には背の高い木が植えられていて、1.2階のどの部屋からも緑を見ることが出来ます。バルコニーがあって外に出ることが出来る部屋には全て「涼」の文字が入っています。
Azumi Setoda の食事
夕食は、当時の堀内家がお客さまをもてなす家庭料理をコンセプトに、しまなみの食材を使い、和食をベースに交易が盛んだったこの地をイメージし、スパイスやアジアンテイストも織り交ぜて構成された斬新なメニューです。
旧堀内邸の蔵に保管されていた貴重なアンティークの大皿や小皿を使用し、大皿料理を取り分けるスタイルです。おそらく堀内家の方も所蔵していた器が散逸するよりもAzumi Setodaで使ってもらえると、あそこにあるなと思えて嬉しいと思います。豪商という家の蔵にはどれだけの量のお皿があったのでしょうか、とても気になります。
瀬戸内 海と山のお造りは、真鯛・はまち・蛸・鯵・鳥 醤油と胡麻油が添えられて、蛸に胡麻油が合うのは初めて知りました。
旬菜とピータンの白和えも、こんなにピータンが和食に寄れることが驚きです。
メニュ-を見たときから1番気になったGANSUは、なんと和食でした。
呉市の郷土料理で、魚のすり身をあげたもの。言葉の語尾に付ける~がんすは、丁寧語で〜でございますという意味なのだそうです。横文字で書いてなくても聞くまでわからない料理でした。
イスラム揚げはイシモチとどんぐりをあげたもの。塩味のサクサクのチップスみたいな感じで、横にクミンコリアンダーガーリックのスパイスが添えられています。スパイスは味変程度に使用しました。
メインは、鯛の油蒸しです。鯛の中に豚肉の塩漬けやしめじや椎茸などのきのこ類を入れて熱々の油をかけて作る、中華料理で良く食べるメニューですが、お世辞でなく今まで食べた中で1番美味しい油蒸しでした。
神石牛の炭火焼きに添えられているのは旬菜とシャインマスカットのヤム(タイの混ぜ合わせる料理のこと)。お肉と甘酸っぱいサラダとても良く合いました。
しめのご飯は鯛茶漬け。甘めの鯛としっかりしたお出汁でした。
デザートは、プリン。
変わったメニューが多いのではと心配していましたが、上質な食材と和食がベースになっているので目新しいものが苦手な人でも問題なく食べることが出来ると思います。
滞在中気づいたことや対応について
アマンと同じように感じたのは、建物全体に流れる平和な空気感と柔らかい接客です。そしてAzumi Setodaの良い所は、宿が通りをはさんでカジュアルなyubuneと隣接している所。高級旅館は宿だけで完結してしまう所が多いけれど、近くを散策したり、街にもふれあう楽しさがありました。
滞在中、若いスタッフがゲストに声がけをしてコミュニケーションをとっている所を何度も見かけました。この対応の柔らかさはどうすると身につくものなのか改めて女将の窪田さんに質問しました。アマンにマニュアルが無いことはわりと知られていることですが、やはりAzumi Setodaにもマニュアルはないそうで、ホテル業界に入ってくるスタッフはゲストの役にたちたいという基本的な資質を持っていると話されていました。勉強しなさいと言わなくてもやる成績優秀な人みたいな感じでしょうか?
おかげさまで居心地良く過ごせるスタッフ陣でした。
まとめと宿デ-タ
Azumi Setodaに滞在した特別な時間は、アマンに滞在した時と同様、記憶が薄れることは無さそうです。アマンで働いていたことのある2人の日本人が近江の福田屋を立ち上げた次にエイドリアン・ゼッカ氏と共に手がけたのがここ瀬戸田の宿。宿のマークの3つの渦は、元々知り合いだった3人が協力して作ったことにも由来しているのだそう。今回の滞在でとても感動したこと一つが、エイドリアン・ゼッカ氏の想いを継ぐ日本人がいたということがわかったことです。素晴らしい宿が出来たこの機会にぜひ、上質な滞在を目的に旅をしてみてはいかがでしょうか?
(2021年9月訪問)
宿名 | Azumi Setoda |
住所 | 広島県尾道市瀬戸田町瀬戸田269 |
電話 | 0845-23-7911 |
創業 | 2021年3月1日 |
予算 | 1泊2食付き、2人部屋利用の場合 1人55,775円〜 |
WEBサイト | https://azumi.co/setoda/ |
宿MAP