もし、あなたが老舗の寿司屋の3代目で、行く行くは4代目の息子に店を任せたいと思っていたとします。そんな時、息子が銀座の寿司屋で食べたマグロのお鮨に感動し、自分の店のシャリを変えようとします。シャリは寿司屋の命。先々代から続いた店の伝統を崩しかねません。
あなたはそんなシチュエーションの時、どうしますか?
息子の意見を聞かずに自分たちの伝統を守りますか? もしくは息子の意見のまま、伝統を放棄し、新しい道を進みますか?
そんなテレビドラマさながらのストーリーがあったというお店が実在するのです。
大阪は堺にある寿司屋「弥助」こそ、その店なのです。1938年創業、80年続く老舗です。
ちなみに「弥助」とは寿司のことです。 浄瑠璃・歌舞伎の演目として知られる「義経千本桜」の中で「弥助」という寿司屋が登場します。 このことから寿司のことを「弥助」と呼ぶようになりました。
「弥助」の現在3代目の大将、大賀淳行(おおが あつゆき)氏は、1957年生まれ。大学卒業後、祇園の割烹料理の名店「祇園川上」で修行。25歳の時に実家に戻り、以後祖父の代から引き継いだ伝統を大切にしてきました。名店と言われても驕ることなく、肩肘張らずに極上の寿司を食べられる店の暖簾を守ってきたのです。堺は貿易港としての歴史があるだけに全国各地からの天然素材にこだわってきたのもこの店の伝統なのです。
南海電鉄堺駅から徒歩10分の場所にある「弥助」は高級旅館のような一軒家の外観。一瞬中に入るのに戸惑うほど。しかし、大将の柔らかい物腰に変な緊張感もすぐに溶けました。
カウンターは今は6席のみ。アクリルの衝立があり、ソーシャルディスタンスも万全です。まずはおつまみが6品ほど出ます。中でも「淡路の鯛、雲丹」と「からすみ、餅」は絶品。どの品もおつまみというより、本格的な日本料理を味うようで満足感いっぱいです。
その後、握りが続きます。2種類の酢飯を使い分けします。この時間がすぐに終わらないようにと思えるほど幸せな時間です。
大将に息子さんのことを聞いてみました。息子は息子でやりたいことがあったので、こういう形にしましたとの事。
そうです。2018年、大将は息子の大賀信一郎さんに独立することを提案。信一郎さんは当初は寿司屋を継ぐ気はなかったのですが、高校時代に飲食店のアルバイトの経験をしてから寿司の道に入ることを決意。10年間東京や様々な土地で研鑽し、父の店で3年働いたあとでした。しかも「弥助」の通りを隔てた真向かいの家族の土地に「鮨おおが」をオープンすることになったのです。
伝統の寿司一家に改革を求めた息子。家族のストーリーはどれほどのものがあったのでしょうか?「鮨おおが」は「マグロ」を重点とし、「弥助」の酢飯ではなく、きりりとした酢飯1本で勝負をします。
その後、「鮨おおが」はあれよあれよという間に一躍人気店に。2021年3月現在食べログ大阪府の寿司店ランキングで「鮨おおが」は4.42点で1位。全国的にみてもベスト20位入りを果たしているのです。予約も半年待ち?で、ほとんど取れません。
一方「弥助」の方も4.00点で大阪府寿司店7位をキープ。堺市という土地で通りを挟んで大阪府1位の店と7位の店が並ぶというのもユニークな話です。
最後は大将自ら通りまで出て丁寧にお見送りされたのも忘れられません。寿司に対しての真摯な姿勢を感じることができました。
レストラン名 | 弥助 |
ジャンル | 寿司 |
住所 | 大阪府堺市堺区大町東1-1-18 |
TEL | 072-221-3355 |
予算 | ランチ6000円から、ディナー20000円から |
座席 | 20席 |
個室 | あり |
予約の可否 | 可 |