京都の花背と言えば、京都人にとっても「ど田舎」です。イメージは緑いっぱいの里山、北山杉の林と茅葺屋根の民家。
実際近くには今なお茅葺屋根の家で暮らす人々の「美山かやぶきの里」があって、ちょっとした名所になっているくらいです。京都駅から車で上賀茂、貴船、鞍馬を抜けて京の奥座敷と呼ばれる花背まで走ること1時間半!そんなところに「美山荘」は佇んでいます。今回は宿泊はせず、ランチを食べにお伺いしました。
この宿は創業1895年という歴史を持つ老舗旅館です。当初は峰定寺の宿坊として始まった宿だそうです。現在は4代目当主である中東 久人(なかひがし ひさと)氏が、3代目から謳い始めた「摘草料理」を引き継いでおられます。「摘草料理」とは、畑で栽培されることのない食べられる草花や雑草などの山菜料理のこと。自らが野に入り山に入り 季節の山菜や草を摘んで来ては料理するとか。目の前の清流で採れるアマゴ(ヤマメ)も採ってきます。琵琶湖など周辺の魚も使いますが、地元産の食材がメインのようです。
通された個室は川側で「石楠花(シャクナゲ)」という名で、部屋の外に川床を思わせる和風バルコニーが付いていて、大きなガラス張りで、小川のせせらぎも聞こえる最高の環境です。
「桜はあいにくちょうど散ったとこです。この辺は雪深いので例年ゴールデンウィーク位に散るんですけど、今年は早かったもんで」と仲居さんが言う通り、4月上旬の今、すでに目の前の桜の木は葉桜になっていました。満開のタイミングで来たらさぞすごいだろうと思いました。
頂いたランチは15000円で8皿ほどのコースです。お食事はお店からのお酒で乾杯から始まります。
「摘草料理」というだけあって、本当に山菜や野の草、珍しい鯉や鱒などを使い、肉料理は出ません。素朴な田舎風の料理の数々ですが、洗練された料理法と出し方はさすがに超一流。珍しい食材が好きな食通の人に喜ばれるのがわかります。
籐の籠に入って出てきた八寸は珍しいもののオンパレードです。氷魚(アユの稚魚)、山菜のウルカやウルイ、コゴミのクルミダレ、味噌漬けの卵黄とタラの芽、栃餅こんにゃく、湯葉に巻いたゼンマイ、きくらげなどなど。次は鯉の刺身がでて、野の草の天ぷら盛り合わせです。タラの芽、イタドリ、コゴミ、フキノトウ、クルミやつつじの花など春の香りが満載。カリッと香ばしく揚げられた山菜たちは、味わってみると、それぞれの持つ独特の香りがよくわかります。初めて食べる山菜もたくさんあります。
そこへ白味噌のお椀を持って登場した女将さん。明るくて感じのいい小柄な美人です。いろいろな話を聞かせてくれました。さすがはミシュラン2つ星にも輝く一流料亭の女将さんという品の良さと風格。でもこの清らかな田舎にも似合う清楚な美しさもお持ちです。その後も時々お料理を持ってきてくださり、最後には一緒に記念写真も撮らせてくれました。今度はチャンスが巡ってきたら、ゆっくり泊りに来てみたいと思いました。
風流を愛する多くの著名人や食通たちも、昔懐かしい気持ちになれるこの宿で時を忘れて静かに過ごし、季節の移ろいを感じてきたにちがいありません。そんなことが叶う数少ない宿で、私も旬の美食に触れることができました。
(2021年4月訪問)
レストラン名 | 美山荘(みやまそう) |
ジャンル | 日本料理 |
住所 | 京都市左京区花背原地町375 |
TEL | 075-746-0231 |
予算 | ランチコース15000円~ ディナーは現在宿泊客のみ |
座席 | 60席 |
個室 | あり |
予約の可否 | 完全予約制(予約は2名より) |