「シェフはNomaで働いてたことがある」「オープンはコロナ真っ只中の去年の9月」「オープン早々ゴ・エ・ミヨに掲載された」「しかもシェフはまだ26歳で、若い頃はやんちゃしていたらしい」
これが「レストラン ナズ」を訪れる際に前知識として頭に入れていた情報です。何やら凄い文字の羅列ですが、まずデンマークのNomaといえば「世界のベスト・レストラン50」で4度も1位に輝いたことのある、まさに世界一の称号に相応しいレストラン。そんなNomaでの修業経験があるというだけでも驚きですが、何より驚かされたのはシェフの鈴木夏暉氏の経歴です。
中学卒業後、高校には行かず地元のイタリアン「ジンガラ」で働いていたと言う彼。朝から晩までしっかり働いたあとの彼の楽しみは…バイク!と言ってもただのバイクではなく、いわゆる「族車」と呼ばれるもの。なんと若い頃は暴走族のチームに入っていて毎晩のように族車を乗り回していたのだとか。そこの両立って可能なの!?とビックリしましたが、実際にやってのけていたのだからかなり器用な人なのかもしれません。それにしても26歳という若さでこれだけ濃い人生を送っているなんて…もう経歴から面白すぎます!
そんな鈴木シェフが作る料理は、男らしい豪快な料理…ではなく。意外にも繊細な味付けが特徴の、洗練された創作イタリアンです。北欧のレストランで学んだという「発酵」の技術が散りばめられた料理は、素材の旨味を二段階も三段階も引き上げて彼にしか作れない皿へと仕上げられています。ランチは2組、ディナーは1組のみのゲストに制限し、料理の説明はシェフ自らテーブルに来てくれます。今回はシェフのおまかせ7皿7,500円のランチコースをいただきました。
まず一品目は長野県産の無農薬野菜を使用した温野菜の盛り合わせ。数えきれないほどの野菜やフルーツ、ハーブはそれぞれの食材に合った方法で調理され、またオイルや塩加減も変えているという手間のかかった一皿です。中央には発酵させたホワイトアスパラガスの泡ドレッシングがかけられ、一緒に食べるとまた野菜の旨味が引き立ちます。
続いて出てきたのはスペシャリテの信州サーモン。発酵の技術を余すところなく使ったこの料理は、彼が北欧で得た知識の集大成とも言える逸品なのです。まず信州サーモンは2日間塩漬けにし、その後13日かけてじっくり熟成させていきます。これを40℃で1時間以上火入れすることで、独特の旨味や食感が出てくるのだとか。まるでレアのようなトロっとした食感と口の中に入れた瞬間に広がる香りが堪りません。一緒に合わせたカブも2週間かけて発酵させたものらしく、同じく発酵させたトマトのエキスとザクロ、青紫蘇の香りのソースと共にいただきます。この一皿にどれだけの労力がかかっているのか…妥協を許さないその姿勢に脱帽です。
次いで出てきたのはズッキーニのお皿。なんと文字通り主な食材はズッキーニのみというチャレンジ精神溢れる料理なのですが、そもそもズッキーニは90%以上が水分で旨味の少ない野菜。これを先ほどのサーモンの後に主役として使うというから驚きです。出てきたのは3つの調理法を施されたズッキーニの冷前菜。1番下は丸ごと焼いて焦がしたズッキーニのジュレ。そして真ん中がズッキーニの水分を飛ばして旨味や甘みを凝縮させたアイスクリーム。その上には、チップ状にしたズッキーニを紅玉りんごやハーブのオイルで戻したものがトッピングされています。発想力にも驚かされますが何よりも素直に美味しい!!事前に「次はズッキーニのみを使った料理です」とアナウンスされていましたが、正直食べてみてもズッキーニだけとはとても信じられないような繊細で複雑な味わいです。アイスの優しい甘みとジュレの程よい苦み、そしてトッピングの爽やかな酸味が折り重なり究極の料理へと昇華されています。今まで脇役だと思っていたズッキーニですが、まさかこんな食べ方があったとは…シェフは天才かもしれないと確信した一皿でした。
その後もシェフの勢いは止まりません。魚料理は近くの川で獲った鮎を使った料理。なんと店先に生簀があるらしく、獲れたての新鮮な鮎を味わうことが出来るのです。鮎はお腹の部分だけを使用して肝で和えた万願寺唐辛子と一緒に春巻きに。意外な組み合わせですがこれがまたハマる!ソースはスイカを丸ごと使ったソースです。加熱して余計な水分を飛ばして作るそうですが、1個のスイカからワイングラス1杯分ほどのソースしか出来ないのだとか。砂糖などは一切加えずスイカの甘みとビネガーの酸味が効いたソースは苦みのある春巻きと相性抜群です。
さて、イタリアンでは欠かすことの出来ないパスタにも触れておかねばなりません。今回出されたパスタの特徴は驚くほど薄いということ。あまりに薄いため茹で時間も2~3秒ほどなのだとか。ローズマリーが練り込まれたパスタはギリギリまで薄く伸ばされ、短黒牛のソースと合わせます。一見重ためな印象を受けますが、香味野菜と麺の香りが豊かな上に、薄麺のおかげでコース終盤でもペロッと食べることが出来ました。
またメインの信州の黒豚も火入れが完璧。脂っこく無くて最後まで考えられたメニュー構成になっているように感じました。勿論コースを締めくくるデザートも素晴らしい。カシスの実、葉、枝を余すところなく使ったデザートは程よい甘さが舌に広がる最高の一品です。
特筆すべき料理が多すぎて結局すべての料理について書くことになってしまいましたが、それだけ「レストラン ナズ」での食事は驚きに溢れる素晴らしいものでした。これだけの料理を26歳という若さで作り上げるなんて…自分とたった2歳しか変わらないとは信じられません。
常に向上心を持ち成長を続けていく鈴木シェフ。今後30代40代と歳を重ねていく彼が、どんな料理で私たちを魅了してくれるのか…今からわくわくしてしまいます。(2021年6月訪問)
レストラン名Restaurant Naz(レストラン ナズ)
ジャンル | イタリアン/イタリア料理 |
住所 | 長野県北佐久郡軽井沢町追分134-3 GREEN SEED軽井沢内 |
TEL | 050-5872-6513 |
予算 | ランチ¥7,500~ ディナー¥13,200~ |
座席 | 10席(ランチ2組、ディナー1組) |
個室 | 無し |
予約の可否 | 完全予約制 |