多くの高級料理店が魚の仕入れで利用していることで有名な、焼津の「サスエ前田魚店」。今回ご紹介する「シンプルズ」というレストランもそんな「サスエ前田魚店」から最高品質の魚介類を仕入れ、提供しているお店の一つです。JR静岡駅から徒歩20分ほど、古民家を改装したお店はイタリアンとしては珍しく靴を脱いで上がるスタイルです。
有名店から新鮮な魚を仕入れているだけあって、やはりこの辺りで獲れる魚を使った料理が多く、様々なスタイルで食べられるのが魅力です。イタリアンと言っても、刺身や居酒屋メニューにありそうな先付けが出たりとジャンルはバラバラ。きっとシェフが最も美味しいと感じる食べ方で調理しているのだろうと感じられました。また「シンプルズ」には決まったメニューがなく、毎日の仕入れ状況を見ながら料理を考えているのだそう。そのため都度コースの内容が変わり、いつ行っても違う料理を味わえるのです。
しかし一貫して言えるのは店名の通り「シンプル」であること。シンプルとはなにも悪い意味ではありません。余計なものをそぎ落とし、素材の持つ本来の旨味を味わう…それこそがシェフの目指す料理のスタイルなのです。
お店では6,500円のディナーをいただきました。特に素晴らしかったのがオプションで頼んだ「もち旨カツオ」の料理。滅多に市場に出回らない魚らしく、店員さんに勧められるままに別オーダーしたのですがこれが正解でした。そもそも「もち旨カツオ」とは何なのかと言うと、遠州灘沖の近海で揚がったカツオを神経締めし、死後硬直が始まるまでという限られた状態のカツオのみが「もちカツオ」と呼ばれます。そして更にそこに「サスエ前田漁店」の店主前田尚毅氏の手によって旨味や色味を引き立てた究極のカツオこそ、「もち旨カツオ」の称号を得られるのです。そんな貴重なカツオという事もあって、ここは一番食感を味わえるお刺身でいただきました。切り分けたサイズによって口内で味の余韻が変わるという「もち旨カツオ」。普通のカツオに比べ嚙んだ時ねっとりとした食感が特徴的で、何もつけずとも風味が凝縮されているのがひと口食べて分かります。一緒に合わせていたのは細かく刻んだゆで卵と紫蘇。シンプルですがカツオの旨味を引き立てるのにぴったりの組み合わせだったように思います。
またハマグリを使った料理も、乳製品や塩などは使わずに、ハマグリの持つ旨味だけで作られていて非常にシンプルでしたが美味しかったです。しかし一方でシンプル過ぎる料理があったのも事実です。特に先付けのシラスの料理は、半分に切ったゆで卵の上に生しらすを載せただけ。いくらシンプルを追求しているとはいえ、家庭でも作れそうな料理は避けた方がいいと感じました。
静かなエリアにある目立たないお店ですが、中に入るとコロナ禍とは思えないほど大賑わい。カウンター席もぎっちり人で埋まり、テーブル席もまるで居酒屋のようにわいわいと盛り上がっていたのが印象的でした。古民家を改装した店内は味わいがありますが、如何せんカジュアルな雰囲気のため居酒屋感覚で騒ぐ人も多いのでしょう。料理の説明をしてくれるまるで執事のようなソムリエさんも声が小さく、お店の雑音に掻き消されてほとんど聞き取ることが出来ませんでした。また私が通された席は椅子が木の硬いベンチになっていて、長時間座るのには不向きなつくりでした。生憎この日は厨房もかなり混乱していたようで3時間の長丁場。帰る頃には腰が痛くなってしまい、ちょっと残念でした。
味、サービス共にどうにも人によって好き嫌いが分かれるような印象を持ちました。今回私はおしゃれなイタリアンのつもりで訪れていたため、実際のお店とのギャップにびっくりしたのですが、ちょっと高級な居酒屋に行くつもりであれば、味もサービスもこんなものかなと感じます。いずれにせよ、静岡で揚がる最高品質の魚介を味わえるお店であることには間違いありません。(2021年7月訪問)
レストラン名 | シンプルズ (Simples) |
ジャンル | イタリアン/イタリア料理 |
住所 | 静岡県静岡市葵区馬場町39-3 |
TEL | 050-5872-7803 |
予算 | ¥6,500~ |
座席 | 16席 |
個室 | 有り |
予約の可否 | 完全予約制 |