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このお店の料理はコースで所要時間が最低4時間から4時間半。日によってはもっとかかるそうです。これは事実です。なぜそんなに時間がかかるのか?実際に行って確かめました。夜7時から始まって11時過ぎに終了。今夜は早めでしたと言われました。
カウンターで通常はディナーのみの営業で、1日最大4名までに限定しています。1月の寒い夜、ゲストは私たち3人家族だけで、広い店内を独占するという贅沢なディナータイムでした。
関西出身の腰の低い優しい湊シェフと陽気で気さくなマダムがお二人。おふたりはなんと牧場でたくさんの牛を育てる牛肉のプロでもあります。
さて、いったいどんな料理が出されるのでしょうか?興味津々。目の前で始まる美食の宴始まります。
カテクオーレの料理の最大の特徴はその場で作ること
作り置きしない、調理の準備は基本しない。その場でイチから作り、出来立てをゲストに食べてもらうこと。料理の出来立ては例えば熱々のものであればクリームの出来立てだったり、肉が切り立てだったり、それはデザートのパンナコッタまで一貫して続きます。だからこそ今まで味わったことのないほどの美味しさに出会って驚かされるのです。出来立て中の出来立てってこんなに美味しいんだと目からウロコの連続です。
ひとつの料理の準備に30分から45分ほどかかることもあります。4時間で済めば早い方です。ご夫妻は「そのことを理解していただいたゲストだけを招きたい」と言います。時間を気にしたり、なぜ準備しとかないの?と批判的な人は確かに来ない方がいいでしょう。最高の料理を味わうためにはそのプロセスが必要なのです。マダムいわく「シェフと一緒に皆さんで作り上げてもらう。そんな素晴らしい空間が出来上がっていくのが理想」だとか。
私自身行く前はそんなに待たされるなら文庫本でも持って行こうなどと考えていたのですが、行ってみるととんでもない。カウンター越しにシェフが繰り広げる世界に、もはや釘付けとなったのです。
陽気で頑張り屋のマダムの存在も偉大!
メニューは1本で、11皿ほどで2万円のコースです。時々ランチも受けるそうですが、ほぼディナーのみ。長丁場なので1日1回でクタクタになるそうです。なぜなら朝から牧場で牛の世話もしているから。
関西出身のご夫妻が、11年くらい前にマダムのおじいさまがやっていた佐賀の牧場を引継ぎ、牛を育てながらイタリアンのお店をオープン。かつてはスタッフもいてカジュアルなお店だったので大きなお店です。コロナの少し前からご夫婦2人でできるようにコンセプトを変更したそうです。
1000頭近くの牛の世話をしているけれど、小学校6年生のひとり息子さんの世話もあります。「牛より早く起きる息子に餌やってから牧場で牛に餌やるんです」と陽気な大阪出身のマダム。都会で会社員をしていたのがこんな田舎の地にやって来て友人1人いないのが本当に大変だったそう。田舎に馴染むのは時間がかかったけれど、今では牛が可愛くて仕方がないし、友達を作る暇もないけれど牛が友達。牛を追う番犬とも家族のように仲がいいのです。自然の中の暮らしが今では欠けがえのないものとなり、「ドはまりしてます!!」と頼もしい言葉。根がたくましく明るいマダムの存在はこの店に欠かせないのです。職人のように黙々と料理を作り続けるシェフも優しそうで愛想が良いものの、調理中のおしゃべりはやはり奥さん担当なのです。
まずは塩とミルクから
コースの始まりは「塩とミルク」と題された一品から。ミルクから直前に乳脂肪分だけ取り出しレモンの酸で固めたクリームで、五島列島の海水から採った塩と無農薬のレモンの皮を削ってかけてあります。焼き立てのブリオッシュが熱い石に載って出てきます。ふわふわ熱々のブリオッシュをスプーンがわりにしてクリームを付けて頂きます。パンをこよなく愛しミルクも大好きな私にはこれぞ至福のひととき。
牧場で育てた上質のビーフが今回のディナーではいろんな形で登場しました。まずはタルタルをじっくり作っていきます。サーロインとリブロースの間の部位。2003年生まれの黒毛和牛の18歳くらいの経産牛で、3週間熟成させたものに備長炭で瞬間的に火入れをします。伊万里の鶏の卵黄、キビナゴ魚醤を混ぜていきます。ここまで肉にこだわるのも牧場主としては当然なことなのでしょう。深い旨味に感動。カリカリのライ麦トーストと一緒にペアリングのスープも。鮑や有明のアサリ、菊芋の根などが入った少し苦みのあるスープがよく合います。
カルパッチョは同じ経産牛のサーロインで、モモ寄りの尻尾辺りの肉を塩水にくぐらせてハムを作る要領でカルパッチョにします。珍しいのはアクセントに唐津の鰆の薄切りをのせて備長炭で炙るのです。シャンパーニュと共に本物のビーフの味を噛みしめます。
シェフ渾身の力作パンツェロッティ製作開始。そして肉焼き名人の技も!
ひとつひとつ目の前で丁寧に作られていく料理の数々。途中いちばん時間がかかったのはパンツェロッティというプーリア州の名物のピロシキのようなしっかりした揚げパンです。中身の準備、皮を伸ばし広げ具材を詰めて丁寧に形を整えていきます。それを油で揚げて出すまでに45分経過。ゲストはカウンターでじっくり作業を観察します。おしゃべり好きならマダムとワイワイ話してもOK。
揚げ立てをホフホフとかじると、中身は豪華な佐賀の美味しいもの尽くしです。唐津の天然車海老はゴロンというほど大ぶりです。牛の肉味噌に佐賀の2種のチーズ。アミエビの干したものや豚のトリッパの塩ゆで、佐賀ほのかの苺の酸味と香りも漂います。中身はその都度変わるみたいです。待ち時間にお腹が空いて来たのでめちゃくちゃ美味しくて、食べ終わると人心地つきました。
車海老の殻も無駄にせず出汁を取って木の芽と一緒にひと口スープに。その後も菊芋のスープです。こちらはクリーミーで、バターでゆっくり火入れしたものを水だけ入れてミキサーにかけて作ります。優しい滑らかなスープに時々感じる塩と珍しい唐津のリンゴもアクセントです。
メインディッシュはサーロインとリブロースの炭火焼きです。2種類順番に出されますが、それぞれ焼き方に異なる工夫があって、グリルや炭火などあっちこっちで焼き続けるシェフ。まさに肉焼の名人と言えるテクニックでしょう。大切に育ててきた牛だから、最高に美味しく食べてほしいという愛情が詰まっています。ジューシーで香ばしくうまみも最高で絶品としか言いようがありません。今まで食べたビーフで一番美味しかったのです。
トロトロの作り立てパンナコッタにメロメロ
ここにきてイタリアンのお店だったと再認識。〆のパスタが登場しました。伊万里のトマトで作ったシンプルなサルサポモドーロ。肉の後なのでさっぱり素うどん的に頂きます。シンプルなので1番緊張するお皿だそうです。濃厚なトマトは酸味が程よくするっと完食。
これで終わりかと思ったら、常連さんに出す裏メニュー(まかない食)の焼き飯を特別作ってくださいました。特製のウスターソースで味付けしてあるけれど、渡り蟹やビーフのカリカリ焼いた破片も入っていて、まかないにしては豪華です。お腹いっぱいでもまだ入る美味しさです。
デザートは先ほどから目の前の大きなボールにたっぷり入った氷を使ってこれから作り始めます。美味しいミルクを使ってパンナコッタができるのです。少しずつ固まっていく寸前に汲み上げると完全に固まらないトロトロの状態のものが出来上がるのです。キュッと絞ったライムの香りも爽やかで、「汲み上げパンナコッタ」と名付けられたこの特別のパンナコッタはもはや今までのパンナコッタとは完全に別物!私は「天使のパンナコッタ」とでも名付けたい。毎日食べたい味でした。
レストラン名(ジャンル) | カテクオーレ kate cuore イタリアン |
住所 | 佐賀県伊万里市立花町3997−4 |
TEL | 0955-23-1110 |
予算 | コースは20000円 |
座席/個室有無 | カウンターのみ 1日4名までに限定 |
予約の可否 | 完全予約制 |
まとめ
最後の最後まで出来立て中の出来立ての絶品料理を満喫させてくれたシェフ。ここまでこだわるのだから、少々待つことなど当たり前に思えました。
決して偏屈だったりこだわりの強いご夫妻などではなく、明るく優しい腰の低い方々でした。最後に「長時間お待ちいただき本当にありがとうございました」と感謝の気持ちを表してくれました。シェフの料理作りを理解したことへの感謝のようです。いえいえ、むしろ感謝したいのはこっちの方でした。これほど味もコンセプトもインパクトのある料理を食べたのは初めてだったので・・・。
(2022年1月訪問)