三陸の秘境にある人口3000人ほどの小さな村・田野畑村にあるフレンチレストラン「ロレオール田野畑」。何故こんなに不便な場所にレストランをオープンしたのだろう、思わずそういう感想を抱いてしまうような秘境レストランが日本にはいくつも存在します。私も何度かそういうレストランに足を運んだことがありますが、今回の目的地ほど遠かった場所はそうありません。「ロレオール田野畑」はなんと岩手県の県庁所在地・盛岡から車で片道2時間半という超絶不便な場所にある変わったお店です。途中からコンビニはおろか信号まで無くなり、延々と山道を進んでいきます。私はこの日東京から盛岡まで新幹線で2時間半、そこからまた車で2時間半かけてレストランへ向かったので合計5時間以上も要してしまいました。
高台に位置するこの一軒家レストラン。この日はあいにくの雨でしたが、本来ならば断崖が続く三陸の海、そして山の景観がお店の窓から美しく見えるそう。シェフの伊藤勝康氏は千葉県出身。何故彼は縁もゆかりも無いこの辺鄙な土地にレストランを開いたのでしょうか。
そもそも、田野畑村は放っておけば消えてしまいそうな小さな村。そんな地域を立て直すために生まれたのが「ポーラスタープロジェクト」で、その活動の一環として手始めにスタートしたのがこの「ロレオール田野畑」なのです。食べログの点数こそ低いものの、シェフは「料理マスターズ」にも掲載されているような実力者です。
天井の高い開放感抜群の店内は全22席。シェフとマダムの二人三脚でまわしているようで、満席時にはかなり慌ただしくなりそうな印象です。
ロレオール田野畑で出される料理に凝りに凝ったフレンチのお皿はありません。その代わり伊藤シェフが料理に込めるのは三陸のテロワールを結集させたもの。地産地消に重きを置き、シンプルながらも洗練された料理を提供しています。海が近いため新鮮な魚を使った品が特に多く、野菜も地元の契約農家さんから仕入れた自慢の無農薬野菜を使用しています。私がいただいたのは全6皿4,500円のランチコースです。
まず出てきたのはとてもユニークなお餅入りのサラダ。よくあるレタス、キュウリが入ったサラダに突如お餅が現れたような印象で、美味しいですが不思議な感触でした。
次いで出てきたのはヒラメにカリフラワーのソースを合わせた前菜です。余計なものが一切入っていないような素朴で優しい味わいで、シンプルですが美味しい一皿でした。流石三陸の海を見下ろす場所にあるだけあって、魚の扱いはお手の物。その後も2品魚料理が続きますが、アイナメや穴子などそれぞれの食材に合った調理法に仕上げられていました。特にアイナメのソテーが素晴らしく、ワカメのソースとの相性も良かったです。いずれもフランス料理特有の重たいソースといったものは見当たらず、さらっとした軽いソースと合わせられていました。店内を見渡すとこの日のお客さんは私たちと、恐らく地元の方と見られるおじいさんやおばあさんのみ。なるほど、こってりとした味付けの料理が無いのはこうした地元の高齢者の方々が食べやすいようにという配慮なのかもしれません。私はもうちょっとこってりとした料理がいくつかあった方が好みですが、他でも食べられるような料理を田野畑村でわざわざ出す意味は無いなと考えを改めました。
それにしても、この辺境レストランにわざわざ食べるためだけに行くには、料理にパンチが欠けるというのが感想です。でも周辺の三陸最大の海岸美である北山崎へは車でわずか10分。三陸の観光の途中に立ち寄るにはちょうどいいかと思います。
不便な場所ではありますが、「ロレオール田野畑」にはここでしか食べられないような特別な魚料理と、シェフとマダムの温かなサービスがあります。こういったお客さんに寄り添ったサービスは、田舎のレストランならでは。地元の方々に人気が高いというのも頷けるレストランでした。(2021年6月訪問)
レストラン名ロレオール田野畑
ジャンル | フレンチ/フランス料理 |
住所 | 岩手県下閉伊郡田野畑村明戸309-5 |
TEL | 080-9014-9000 |
予算 | ランチ¥3,000~ ディナー¥4,500~ |
座席 | 22席 |
個室 | 無し |
予約の可否 | 完全予約制 |