琵琶湖の湖面に手が届きそうなほど近くて、部屋からもお風呂からも湖だけがドーンと迫ってくる驚きの光景。こんな宿に初めて泊まりました。ユリカモメやカワウが群れをなして飛び交い、目の前で魚を食べています。カワウが多すぎて琵琶湖の漁民は魚が減ってしまうと困っているほどです。
京都から湖西線でガタンゴトンと50分ほど。のどかな琵琶湖の風景を眺めながらウトウトしていると、湖がキラキラ輝いている近江今津駅に着きました。駅から車で2分、町中にある宿なのですぐわかりました。
「福田屋」は明治時代から近江今津にある昔ながらの旅籠で、見るからに貫禄があって由緒ある一軒家の宿でした。今津は日本海から京都や大阪への荷を運ぶ港として栄えてきた宿場町で、この宿が町のランドマーク的存在だったそうです。
2020年7月、長年のプロジェクトとリノベーションによって、1日1組だけのゲストが貸し切りで使える宿に大変身、リニューアルオープンしたのです。
宿にいるスタッフは2人だけです。ご主人で料理長でもある西村一樹氏と、バトラーみたいに滞在中のすべてのお世話をしてくれる優しい女性、矢内由美子さんです。矢内さんが出迎えてくれて、宿の歴史を話してくれたり、いろんな滞在中の説明をしてくれました。
2階建ての1軒家の旅館がスタッフルームと厨房以外すべて自分たちだけで使える贅沢。たまたま宿に滞在していたゲストが自分たちだけだったという経験はありますが、最初から自分たちだけで何もかも自由に使えるというのは初めてです。3密の心配も皆無で、我が家にいるようにマスクなしの暮らしができるのです。
部屋数は結構あって、2階の寝室兼居間はかなり広く、1階には囲炉裏のあるスペース、テレビ部屋、ダイニングルームなどがあって使い切れないほど。
お風呂場は小さな旅館の大浴場レベルで、4-5人は入れそうな広さです。そこが我が家のお風呂状態に、着替えも歯ブラシも、洗顔料も置きっぱなしにできるのです。タオルは矢内さんが使用後さり気なく交換しておいてくれます。2階の寝室にはテレビがなくて、1階にテレビ室があります。テレビを観ようとその部屋に入ったら、すぐに矢内さんは暖房を入れたり座布団や枕まで用意してくれるのです。至れり尽くせりのサービスとはこのことです。きめ細やかな心配りのできる素晴らしいバトラーさんです。
ご主人の西村氏はかつてコンラッド東京やアマンリゾートで志摩にあるアマネムの料理部門におられただけあって、料理の味はかなりのハイレベル。琵琶湖ならではの食材のメニューもたくさん登場します。突き出しのイサザという琵琶湖でしか採れない小魚のスパイス揚げや、お造りでは鮒のあらい、鮒の藁焼き、ニジマスの刺身など。焼八寸では鮒寿司、お椀は鯉こくといった具合です。食べなれない食材が苦手な我が家のメンバーはむしろ近江牛のヒレの炭火焼きを喜んでいたのですが、食通のゲストには、そうした独特の食材が喜ばれることでしょう。
かつてアマンリゾートを始めたエイドリアン・ゼッカー氏と共に尾道にある旅館Azumiを手掛けたナル・デベロップメンツ。そのメンバーの多くはアマンリゾーツで働いた経験を持っているそうです。そのナル・デベロップメンツが運営するのがここ「福田屋」なのです。なるほど、だからこれほど斬新で素晴らしい宿に仕上がっているんだと納得したのです。でも矢内さんいわく、「まだまだ進化中。今度バーカウンターも作ろうかと考えています」とのことでした。だからこれからも目が離せない宿なのです。また琵琶湖の風景に癒されに戻って来たいと心から思いました。 (2021年4月訪問)
旅館名 | 福田屋 |
住所 | 滋賀県高島市今津町今津 76 |
TEL | 0740-22-0029 |
お風呂 | 湖の見える大浴場も貸し切り |
予算 | 2名1室利用の場合1人50000円(2食付き) |
露天風呂付き客室 | なし |